コラム

RCEPで拡大する中国の影響力......中国が世界一の経済大国となる日を想定しなければならない

2020年11月17日(火)15時00分

中国、日本、ASEAN諸国とオーストラリアとニュージーランド、15カ国が参加した東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が15日に署名された...... REUTERS/Kham

<15カ国が参加した東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が15日に署名された。一帯一路が人口と経済で世界の主流となる日を想定しなければならない。そのうえで今、なにをすべきかを考える時期に来ている...... >

中国が中心の世界最大の自由貿易圏の誕生

中国、日本、ASEAN諸国およびオーストラリアとニュージーランド、15カ国が参加した東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が15日に署名された。日本はもちろん世界各国で報道され、レポートも出た。まず、BBCブルッキングス研究所The Washington Post戦略問題研究所などから共通するポイントをご紹介したい。

・RCEP参加国は経済的な恩恵を受けるが、中国、日本、韓国のメリットが大きく、中でも中国のメリットは大きい。

・コロナ後の経済回復に重要な役割を果たす。

・経済便益に重点をおき、知的財産、労働者の権利、環境問題などは対象にしていない。
TPP(CPTPP)と自由で開かれたインド太平洋構想に比べるとサプライチェーン強化、経済便益拡大に焦点を当てており、TPPにおいては重要な課題となっていた知的財産、労働者の権利、環境問題、国有企業に関しては盛り込まれていない。言葉を換えると、こうした問題を放置したまま経済便益を享受できる。

・中国がリードする経済圈である。
ブルッキングス研究所のレポートにあった下図をご覧いただくと中国の圧倒的な存在感がわかる。金額はtrillionドル、日本円でおよそ100兆円である。他の全ての国のGDPを合計したくらいのGDPを中国だけで有している。RCEPが経済中心である以上、中国が中心的な役割を果たすことになる。

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付け加えると中国は近年ASEAN諸国との経済関係を強化している。アメリカ、EU、日本との貿易は減少気味であるのに対し、ASEAN諸国との貿易は増加している。

・参加国にとって中国は脅威だが、不可欠な存在となっている。
主として経済的な理由で中国との関係は重要である。だが、同時に脅威でもあるので中国とアメリカのバランスをうまく取ってゆく必要がある。以前、香港の抗議活動に関する記事で、「実現すれば世界最大の自由貿易圏となる東アジア地域包括的経済連携の中心的存在は中国であり、ASEAN参加国はもちろんアメリカのシンクタンクであるブルッキングス研究所も2020年6月16日に中国への期待を掲載しているし、中国を批判しているオーストラリアも香港の問題がこの連携に影響することはないと発言している。」と書いた通りの展開になっている。付け加えるなら新疆ウイグル問題もこの連携に影響しなかったようだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

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