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アングル:四半期開示見直し、早くて2024年か 試される首相の本気度

2021年10月27日(水)18時06分

 10月27日、岸田文雄首相が掲げる企業の四半期開示見直しについて、早期実現は難しい情勢になっている。写真は18日、都内で討論会に臨む岸田首相。代表撮影(2021年 ロイター)

和田崇彦

[東京 27日 ロイター] - 岸田文雄首相が掲げる企業の四半期開示見直しについて、早期実現は難しい情勢になっている。金融庁関係者の間では、法改正案の提出は2023年、法案成立後の改正法施行は24年と見込まれている。日本と同じく四半期開示が義務づけられている米国で見直し機運が高まらなければ、国内の議論が後退する可能性もある。金融所得課税と同様に、掲げた政策が後退するのか、政策実現に向けた首相の本気度が試されることになる。

    <菅前首相との違い>

金融庁所管の法律改正の場合、金融審議会の下に設置したワーキング・グループなどで議論した上で12月に報告書を取りまとめ、翌年1月の通常国会に法改正案を提出するのが慣例となっている。しかし、今年12月までに四半期開示の見直しについて議論をまとめるのは非常に難しい。岸田首相は就任間もなく衆院を解散し、選挙戦の真っ只中だ。

26日に初会合が開かれた政府の「新しい資本主義実現会議」では、出席した有識者から、四半期開示が「近視眼的経営を助長しかねない」との発言があったが、本格的な議論はこれからだ。同会議を担当する山際大志郎経済再生相は四半期開示の見直しについて、同会議で方向性を議論していくとした上で、最終的には金融庁の審議会などの場に移るとの見通しを述べた。

岸田政権下の重要政策の議論の進め方について「年末にかけて各省庁に仕事を急がせた菅義偉前首相とは違う」(中央省庁関係者)との声が出ている。昨年9月に首相に就任した菅氏が、10月に2050年カーボンニュートラル目標を打ち出すと、経済産業省は12月25日に「グリーン成長戦略」を策定・公表した。「経産省には相当なプレッシャーがかかっていたようだ」(関係者)との声が出ている。

金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(WG)は現在、気候変動に関する情報開示の充実について議論中で、四半期開示の議論に入るのは来年年明けになりそうだ。関係者の間では、四半期開示を見直す場合には23年の通常国会への改正法案提出が標準シナリオとなっている。23年の通常国会で改正法案が成立したとしても、経過期間を考慮すれば改正法の施行は24年になるとみられる。「四半期開示の見直しは、来年1年かけて丁寧に議論することができる」(関係者)との声が聞かれる。

<四半期開示、廃止論も>

ある金融庁関係者は「四半期開示の見直しというのは、廃止ということだ」と話す。四半期開示を単に廃止するのではなく、年に1度の有価証券報告書の内容の拡充と、重要事項が発生した際のタイムリーディスクロージャーの充実を図ることで、海外の機関投資家を中心に日本企業の情報開示が後退したという印象を持たれないようにすることが重要だと指摘する。

気候変動の影響など非財務情報の開示は有価証券報告書に反映される見通しだが、企業にとっては有報の作成作業がこれまで以上に煩雑になるため、四半期開示の廃止で負担軽減を図る。法定の四半期報告書が廃止になれば、監査費用などの負担も減る。

<金融庁、2018年は「見直し行わず」>

しかし、金融庁では「いったん義務化したものを任意開示に戻すには相当の理屈付けが必要だ」(幹部)との声も根強い。

四半期開示は2006年に義務化された。同年1月のライブドア事件で四半期業績の虚偽記載について責任を問えなかったことや、経団連の強い要請が背景にあったもようだ。17年の政府の成長戦略で義務的開示の是非について検証を求められたが、ディスクロージャーWGの18年の最終報告書では「中長期の視点で投資を行う観点からも進捗確認の意義を認める見解が大勢」などとして「現時点で四半期開示制度を見直すことは行わない」と明記した。

大和総研の鈴木裕主席研究員は「首相の諮問を受けて金融庁は検討するだろうが、3年前の結論を覆すほどの事情の変更があったとは考えにくい」と話す。

<米国の動向を注視>

    四半期開示の見直し議論を巡り、重要なカギを握るとみられるのが米国の動向だ。米国は1970年から四半期開示を法令で義務づけてきた。日本が義務的開示を続けてきた背景の1つには、米国との比較で日本が開示に消極的だとの印象を与えたくないということもある。

米国では2018年に当時のトランプ大統領が決算回数の半減を指示。米証券取引委員会(SEC)が検討に入ったが、民主党のバイデン政権が誕生したことで立ち消えになっている。

大和総研の鈴木氏は「短期志向の是正策は米民主党の政策でもある」と指摘。「トランプ前大統領の二番煎じと思われないだけの期間が過ぎれば、バイデン政権が四半期開示の見直しの検討を進める可能性がある」と話す。

ただ「米政府が上場企業に対して、気候変動や社内のダイバーシティなどさまざまな情報開示を求める中で、四半期開示だけはやらなくても良いということになるだろうか」と疑問を呈する。

前出の金融庁関係者は「米国で四半期開示の見直しが進まなければ、日本でも議論の後退は避けられない」と指摘。「廃止ではなく任意開示で行くのか、妥協点を探る動きになるだろう」と話す。

「新しい資本主義実現のために四半期開示の見直しがどうしても必要なのか、米国が義務的開示を維持した場合、日本が義務的開示でなくなったら日本の企業の情報開示が後退しないのか。岸田首相の納得の行く説明が必要だ」(市場関係者)との声もある。

(和田崇彦 取材協力:金子かおり 編集:石田仁志)

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