ニュース速報

ビジネス

アングル:コロナ再拡大に大洪水、世界の供給網「限界」も

2021年07月31日(土)09時39分

 7月23日、新型コロナウイルスの感染再拡大、中国とドイツの大洪水に、南アフリカの港湾に対するサイバー攻撃――。写真は洪水被害を受けた鄭州市。23日撮影(2021年 ロイター/Aly Song)

[ロンドン/北京 23日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染再拡大、中国とドイツの大洪水に、南アフリカの港湾に対するサイバー攻撃――。これらの出来事がまるで謀ったように相次いで発生し、世界のサプライチェーン(供給網)を限界点へと導き、ただでさえ脆弱な原材料、部品、消費財の流れを脅かしつつある。企業やエコノミスト、輸送専門家の間からはこうした声が聞こえてきた。

感染力の強いインド由来のデルタ株はアジア各所で猛威を振るい、多くの国が貨物船の船員の上陸を禁止。これによって疲労した船員の交代ができずに勤務期間の超過者が10万人前後に達するという、昨年ロックダウンが最も厳格に実施された時期をほうふつさせる事態になっている。

国際海運会議所(ICS)のプラッテン事務局長は「われわれはもはや船員交代危機第2波の瀬戸際ではなく、既に渦中にある。これは世界の供給網にとって危険な局面だ」と懸念を吐露した。

世界貿易のおよそ9割を船舶が担っている点からすれば、船員問題は石油、鉄鉱石から食料、電子製品まであらゆるモノの供給に混乱をもたらしていると言える。

ドイツの海運会社ハパックロイドは現状について「極めて厳しい。貨物船の空き容量は非常に少なく、空のコンテナは乏しい。幾つかの港湾やターミナルの稼働状況も本格的に改善していない。われわれはこれが恐らく第4・四半期にかけて続くと想定しているが、先を読むのがとても難しい」と述べた。

一方、中国とドイツの大洪水も、最初のパンデミックからまだ完全に復活していない世界の供給網をさらに動揺させる要因だ。

中国では洪水のせいで、夏の電力需要のピークに対応するために発電所が石炭を必要としているにもかかわらず、内モンゴル自治区や山西省などにある鉱山からの石炭輸送が制約を受けている。

ドイツは陸運が著しく停滞。供給網の動向分析プラットフォーム、フォーカイトによると、11日までの週の輸送遅延量は前週比で15%増加した。

台湾の物流企業OECグループの米中西部セールス・マーケティング担当バイスプレジデント、ニック・クライン氏は、アジアと米国の港湾に滞留する貨物を動かすことに同社が奔走していると説明し、処理が終わるのは来年3月以降になるとの見通しを示した。

<自動車にまた試練>

製造各社は操業がおぼつかなくなっている。

例えば自動車メーカーは、新型コロナウイルスの感染再拡大に起因する混乱のため、また生産停止を迫られつつある。トヨタ自動車は、部品が入手できないとの理由でタイと日本の工場で稼働を止めざるを得なくなったと発表した。ステランティスも、英国工場で多数の従業員が感染拡大防止目的の隔離を強いられた関係で、生産を一時停止した。

自動車セクターは今年に入って、世界的な半導体不足がたたって既に大打撃に見舞われている。今年序盤段階では、半導体不足は年後半に和らぐというのが業界の中心的な見方だったが、足元では一部の業界幹部が来年まで不足が続くと話している。

フォード、クライスラーと電気自動車(EV)のリビアンを取引先としている韓国のある部品メーカー幹部は、全ての製品に使われる鉄鋼の原料価格が輸送費上昇などによって跳ね上がったと指摘。「鉄鋼価格と輸送価格の上がった分を織り込めば、われわれの製造コストはおよそ10%高くなっている」とロイターに明かした。

その上で「われわれはコスト抑制に努めているとはいえ、状況は極めて困難だ。原料費だけでなく、コンテナ輸送量も高騰している」と語る。

欧州最大の家電メーカー、エレクトロラックスは、部品供給事情の悪化が進んで生産が抑制されていると発表。米ピザチェーンのドミノ・ピザは、供給網混乱が店舗建設に不可欠な設備の入荷に悪影響を及ぼしていると述べた。

<米中ともに苦戦>

供給制約は米国と中国に痛手を与えている。両国合計の国内総生産(GDP)は世界全体の4割を超えるだけに、世界経済の減速や原材料とあらゆる製品の価格上昇につながりかねない。

IHSマークイットが23日発表した7月の米総合購買担当者景気指数(PMI)は4カ月ぶりの低水準にとどまり、年後半の成長が鈍化するのではないかとの観測を裏付ける内容だった。同社チーフビジネスエコノミストのクリス・ウィルソン氏は「短期的な供給能力問題が引き続き不安視され、多くの製造業とサービス業の生産を抑えるのと同時に、需要が供給を上回るのに伴って物価を押し上げている」と分析した。

<各所で混乱>

業界関係者への取材に基づくと、世界中の港湾で過去数十年目にしたことがないほどの貨物滞留現象が起きているもようだ。

中国の港湾施設運営業界団体は21日、貨物取り扱い余力は引き続き小さくなると表明。「東南アジア、インドその他の地域のメーカーが感染再拡大の影響を受け、一部の注文が中国に流れる動きになっている」と述べた。

米西海岸から内陸部向けの鉄道貨物輸送大手ユニオン・パシフィックは、トラックへの積み替え拠点であるシカゴへの消費財などの輸送を7日間停止した。専門家の話では、これはシカゴにおける貨物の大幅な滞留を緩和するのが狙いだが、ロサンゼルスやロングビーチ、オークランド、タコマといった港湾には重圧がかかるだろうという。

南アフリカでは、ケープタウンとダーバンのコンテナ積み出し港がサイバー攻撃を受け、港湾施設の世界的な混乱に拍車を掛けている。

揚げ句の果てに英国政府のアプリが、新型コロナ感染者と接触したとみられる数十万人の労働者に自主隔離を勧告したため、スーパーが店頭の商品不足に陥る恐れがあると警告したほか、一部のガソリンスタンドは休業を強いられた。

(Jonathan Saul記者、Muyu Xu記者、Yilei Sun記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル155円台へ上昇、34年ぶり高値を更新=外為市

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中