コラム

本気で匿名性を保つために留意すべきこと

2019年03月27日(水)15時30分

できれば日本語を使わない

日本語はそれなりの数の話者がいるとはいえ、世界的に見ればマイナーな言語である。日本語を使う人はせいぜい1億人強といったところだろうから、日本語を使うだけで70億分の1から1億分の1になってしまう。英語は約20億人が使っているので、英語で書けば1億分の1から20億分の1にできる。英語が下手な人は日本人以外にも多くいるので、匿名性という意味では、下手な英語は日本語よりはマシである。

ダークウェブはいつも快晴

どんな情報も、決め手にはならないかもしれないがヒントにはなる。ゆえに、匿名の情報発信において、自分の実人生については一切言及すべきでないのだが、これは頭では分かっていても実際にはなかなか難しい。例えば「今日は雨が降っていた」というだけで、その日地球上で雨が降らなかった場所にはいなかった、ということが分かってしまう。BitCoinに注目が集まった際には、作者である匿名の人物サトシ・ナカモトのメーリングリストへの投稿時間やコード・コミットの時間帯から、彼が住む地域を探りだそうという研究があったし、Silk Roadの運営者ドレッド・パイレート・ロバーツことロス・ウルブリヒトは、ある政治思想に関するマイナーな著者の本を愛読している、という不用意な書き込みが、その思想にかぶれていた彼が捜査線上に浮上するきっかけの一つとなった。9時から5時に書き込みが少なければ勤め人かもしれないし、夏休みに書き込みが多ければ学生かもしれない。こうした細かい情報を組み合わせることで、案外素性は見当がついてしまうものなのである。

自分が住む国や地域のイベントやニュースはもとより、天気や時間、あいさつ(ついおはようなどと言ってしまうが、日本が朝でも地球上全てが朝というわけではない)、趣味や愛読書などへの言及は要注意だ。天気はいつも快晴、時間はいつも朝、あいさつはいつもこんにちは、愛読書はONE PIECE、とでもあらかじめ設定を考えてから書くよう心がけると良い。ちなみに、私が開発しているあるソフトウェアは、投稿時間をランダムに変更するようにしてある。

もちろん、逆手に取ってあえて偽情報を流すということも可能だが、個人的には、小細工をすると慢心して墓穴を掘ることが多いような気がする。他人はもちろん、自分も過信すべきではない。

変名はランダム文字列

人間の思考は、案外パターンから逃れられないものである。ニックネームを付けるにしても、うっかり自分の趣味や関心と関係あるものにしてしまうということがある。変名が必要なら、完全にランダムな文字列で、できるだけ機械的に決めるのが良い。また、変名を使い回すのは最悪で、できるだけ一回限りの使い捨てにすべきである。

プロフィール

八田真行

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部准教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会 (MIAU)発起人・幹事会員。Open Knowledge Foundation Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ビジネス

ECB、6月以降の数回利下げ予想は妥当=エストニア

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story