東京五輪は何人分の命の価値があるのか──元CIA工作員が見た経済効果
開催の代償はあまりに大きい
五輪が日本の新型コロナ感染状況にどのような影響を及ぼすかについて、正確な推計は不可能だ。
そこで控えめな計算をして、五輪閉幕後の1カ月間、(感染が爆発的に広がることは避けられて)5月前半とほぼ同水準の1日7000人程度の新規感染者が発生すると仮定しよう。
この場合、1カ月間の新規感染者の合計は21万人。日本の医療体制は極度に逼迫するだろうが、「崩壊」までは行かないかもしれない。
しかし、新型コロナの致死率は約2%と言われているので、1カ月間で4200人が死亡する計算だ。
米政府は、さまざまな分野で安全性に関する規制を設ける際の基準にするために、複雑な計算式に基づいて人命の価値を約1000万ドルと算出している。
これに従えば、1カ月で4200人が死亡した場合、約420億ドルの損失という計算になる。
五輪閉幕から2カ月目、1カ月の死者数が2100人に半減するとしよう。その場合には五輪閉幕後の人命喪失による損害は、わずか2カ月で合計630億ドル相当ということになる。
このように命の価値を金額に換算するという不愉快な計算をするまでもなく、五輪開催のコストが社会的・経済的な利益を大きく上回ることは明らかだろう。
もしこのまま五輪を開催すれば、日本と世界で非常に多くの人が(本来ならば失わずに済んだはずの)命を失うことになる。
日本政府が五輪への投資を回収しようと躍起になり、虚栄心を満たそうとし、国の経済生産を押し上げられるという誤った期待を抱くことの代償として、そのような結果がもたらされるのだ。
私は五輪を観戦するのが大好きだし、若い頃からスポーツを愛好してきた人間だ。それでも、何千人もの死者を出してまで陸上短距離やレスリングの試合を行う価値はない。
東京五輪は中止すべきだ。
(※日本の常識は世界の非常識だった――。本誌6月15日号では、パンデミック五輪に猛進する日本の現状を総力特集。仏リベラシオン紙東京特派員がリポートする、五輪貴族と国民の「格差」や、海外記者が五輪中に監視を振り切る「抜け穴」とは)
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