コラム

ブラック・ユーモアを忘れた日本は付き合いにくい

2019年02月15日(金)17時01分

2018年の暮れはゴーン逮捕で日仏関係が一気に怪しくなった(写真は2018年11月21日) Toru Hanai-REUTERS

<カルロス・ゴーンの逮捕は、日仏関係を大きく揺さぶった。仏メディアはゴーン容疑者の扱いに疑問を投げかけ、日本側は「余計なお世話だ」と開き直った。そして日仏は今、新たな爆弾を抱え込んだ。フランス文学界の鬼才、ウェルベックの新しい小説に、日本人をバカにしたような登場人物が描かれているのだ。今の日本人は、こんな「侮辱」を受け流せるのだろうか......>

このコラムを書くことによって、私の友人である在日フランス大使館ピック大使を怒らせるのかもしれませんが、ずばり申し上げて 、最近の日仏関係はよくありません。昨年は、日本政府がフランスで半年間にわたって後援した輝かしい文化イベント「ジャポニスム2018:響き合う魂」のおかげで、日仏両国民の魂がスローガンの通りに響き合い、ソフトパワーの力が感じられました。アジアの中で孤立している日本にとっても、アメリカやイギリスとの関係が冷えたフランスにとっても、日仏交流の160周年を祝うこのイベントはまさに時宜を得たものでした。

しかし、日仏交流160周年はハッピーエンドでは終わりませんでした。年末に日産・ルノーのゴーン会長(当時)の不祥事が起き、両政府が互いに牽制し合う緊迫した情勢になりました。パルリ仏国防相と次期潜水艦の調印式に臨むモリソン豪首相の写真は日本でも報道されましたが、
これも昨年から日仏関係に冷水を浴びせた出来事です。日本は海上自衛隊の「そうりゅう」型の受注を目指しましたが、テクノロジーを共有しつつ、現地オーストラリアで建造するによって雇用創出を訴えた仏側に敗れたのです。コンペですから、仕方ないと思われるかもしれませんが、フランスは途中から出てきただけに日本側の後味が悪いのです。

ウェルベック『セロトニン』の衝撃

私はゴーン氏の事件に詳しくなく、武器売買にもまったく興味ありません。ですから、ジャポニスムのような日仏文化の交流によって、フランス人と日本人の魂が響き合えばいい、私はその橋渡しになりたいと思ってたのですが、最近になって、文化面でも両国関係に水を差しかねない「事件」がありました。

先月、フランス文学界のスーパースターである現代小説家ミシェル・ウエルベックが4年ぶりの新作『セロトニン』を出版しました。これが、一見すると日本女性をバカにした内容なのです。感情的になっている両国メディアの火に油を注ぐ一方だなと心配になりました。

ウエルベックの作品は世界中で翻訳され、必ずベストセラーになります。ウエルベックの文体のリズムとユーモア、社会学者並みの洞察力が大好きな私もさっそく新作を読み始めました。面白い、でもセンシティブです。日仏文学関係者から「日本語訳は今年の秋になるよ」と聞き、ひとまずホッとしました。日仏関係が傷つきやすい状態にある今、この本が日本語に翻訳されたら、外交問題にもなりかねません。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金利上昇の影響を主体別に分析、金融機関は「耐性が改

ビジネス

中国人民銀行、与信の「一方的な」拡大けん制 量より

ビジネス

バリューアクト、セブン&アイ取締役候補者に賛成票投

ビジネス

欧州は中国から産業利益守るべき=仏財務相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story