コラム

北海道で高病原性鳥インフルエンザが猛威 ヒトへの感染リスクと影響は?

2022年04月19日(火)11時20分
養鶏場

感染したニワトリと同じ養鶏場内の個体はすべて殺処分されるため、養鶏農家にとっては大打撃(写真はイメージです) Ruslan Sidorov-iStock

<キツネにタヌキ、エミューのウイルス感染を確認──高病原性鳥インフルエンザの発生は、なぜ大きなニュースになるのか。ウイルスの特性、季節性インフルエンザとの違い、養鶏農家への影響、ペットへのリスクを紹介する>

4月に入ってから、北海道で高病原性鳥インフルエンザが猛威を振るっています。とりわけ、今までに国内では感染が確認されなかった動物から、高病原性鳥インフルエンザウイルスの陽性が判定されて、関係者の警戒感が高まっています。

環境省は4日、札幌市内で3月末に回収されたハシブトガラス5羽とキタキツネ1匹を北海道大で検査した結果、高病原性鳥インフルエンザウイルスへの感染が確認されたと発表しました。哺乳類で同ウイルスが検出されるのは国内で初めてです。キタキツネが感染したカラスを食べたことが原因とみられています。さらに8日には、札幌市内で見つかった衰弱したタヌキ1匹も、高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染していたことが分かりました。哺乳類で2例目です。

15日には、網走市の農場から「エミュー(ダチョウに似た大型の鳥)が複数死んでいる」と通報があり、翌日に高病原性疑いの鳥インフルエンザと確認されました。農林水産省によるとエミューの感染確認は国内初で、エミュー500羽と同一農場内にいるニワトリ100羽の殺処分が始まりました。

同日には、約52万羽を飼育する白老町の養鶏場でも陽性個体が確認されました。北海道は自衛隊に災害派遣を要請し、同養鶏場のすべてのニワトリの殺処分を開始しました。ちなみに高病原性鳥インフルエンザ疑いのニワトリは、8日に北海道からほど近い青森県横浜町の養鶏場でも現れており、既に約16万羽が殺処分されています。

高病原性鳥インフルエンザの発生は、なぜ大きなニュースになるのでしょうか。①パンデミック・インフルエンザ(新型インフルエンザ)との関係、②養鶏農家への打撃、③ペットへのリスクを見ていきましょう。

ヒトにも感染するのは、鳥やブタ由来のウイルスの一部

鳥インフルエンザは、A型インフルエンザウイルスが引き起こす鳥の病気です。そのうち、ニワトリが感染すると高確率で死亡するものを高病原性鳥インフルエンザと呼びます。

鳥インフルエンザウイルスは、もともとはカモなどの野生の水鳥が腸内に持つウイルスです。ウイルスは水鳥には悪さをしませんが、水鳥から家禽(ニワトリやアヒルなどの家畜の鳥)に感染するようになって、家禽に対して神経症状や呼吸器症状をおこすウイルスへ変異が起きるようになりました。

A型インフルエンザは、多様な動物種が罹患することで知られています。ブタ、イヌ、ウマ、クジラ、アザラシなどの動物もインフルエンザにかかります。全てのA型インフルエンザの起源は鳥インフルエンザウイルスと考えられており、鳥のウイルスがブタを介してヒトに感染したことが、ヒトのインフルエンザの起源とされています。とはいえ、今のところヒト以外のインフルエンザウイルスでヒトにも感染するものは、鳥やブタ由来のウイルスの一部です。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story