コラム

香港人は「香港民族」、それでも共産党がこの都市国家を殺せない理由

2019年09月02日(月)12時15分
香港人は「香港民族」、それでも共産党がこの都市国家を殺せない理由

香港デモ隊の民族意識が高まっている(8月31日) Kai Pfaffenbach-REUTERS

<デモ長期化の原動力は「独自の民族である」とする香港の民族主義。「不正蓄財の要塞」に共産党高官は手を出せない>

「金儲けさえしていれば、満足する人々」──。

少し前まで世界はこう香港人を見ていたのではないか。政治に無頓着で、経済的利益にだけ没頭する、と。しかし本当はそうではない。香港人の間では政治への関心だけでなく、「民族意識」も高まっている。既に2カ月以上続く大規模デモがそれを物語っている。

私は香港が「祖国の懐に回帰」した直後の1997年夏に同地を訪ねた。本土で使われる「普通話」で話し掛けるとあからさまな嫌悪感を示され、代わりに英語を使うと、満面の笑みだったことを鮮明に覚えている。「言葉の好き嫌いの問題は、英国による植民地支配の残滓(ざんし)だろう」と、中国人識者は認識していた。

しかし、私には一種の民族意識が根底に潜んでいるのではないか、との感覚があった。今、香港を席巻している大規模な抗議活動はまさにその民族主義が成熟し、マグマのように爆発している。

2016年、とある知人を通して、本の推薦文執筆の依頼が私のところに届いた。香港の知識人である徐承恩の名著『香港──躁鬱な都市国家』である。一読すると、著者は「香港民族」との新しい概念を提示している。

その香港民族は、紀元前から東アジアの南部に暮らしていた「百越」の後裔で、近世の大航海時代に突入してからポルトガル人やイギリス人、漢人難民との混血で融合して形成されたものだ、と主張。漢族の一集団ではなく独自の民族である以上、民族自決権を行使し都市国家を建立すべきだ、と端的に宣言している。

人類は古代において、ギリシャもローマも都市国家からスタートしている。今一度原点に戻って、人権と民主主義の都市国家を造ろう、という斬新な内容の著書だった。私はこの本の学術性を高く評価し、複数の研究者らと共に推薦文を寄稿した。

「台湾よりたちが悪い」

いずれ香港の中国化は止まるだろう、と期待していたが、中国化を阻止する運動は今まさに大きな奔流となり始めた。

「香港民族」が目指す「都市国家」の建設を北京当局はどのように理解しているのだろうか。

「香港は実は台湾よりもたちが悪い」と、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する学生たちが結集した初期の段階で、人民解放軍のある将校は批判していた。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

MAGAZINE

特集:顔認証の最前線

2019-9・17号(9/10発売)

世界をさらに便利にする夢の技術か、独裁者のツールか── 新テクノロジー「顔認証」が秘めたリスクとメリットとは

※次号は9/18(水)発売となります。

人気ランキング

  • 1

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(2019年9月)

  • 2

    外国人への憎悪の炎が、南アフリカを焼き尽くす

  • 3

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本との関わりは?

  • 4

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 5

    アメリカ人労働者を搾取する中国人経営者

  • 6

    【韓国政治データ】次期大統領としての好感度ランキ…

  • 7

    2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来…

  • 8

    香港デモはリーダー不在、雨傘革命の彼らも影響力は…

  • 9

    「Be Careful to Passage Trains」日本の駅で見つけ…

  • 10

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 1

    タブーを超えて調査......英国での「極端な近親交配」の実態が明らかに

  • 2

    消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

  • 3

    「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

  • 4

    韓国のインスタントラーメン消費は世界一、その日本…

  • 5

    【韓国政治データ】文在寅大統領の職業別支持率(201…

  • 6

    思い出として死者のタトゥーを残しませんか

  • 7

    9.11救助犬の英雄たちを忘れない

  • 8

    性行為を拒絶すると立ち退きも、家主ら告発

  • 9

    韓国男子、性との遭遇 日本のAVから性教育での仏「過…

  • 10

    英国でビーガンが急増、しかし関係者からも衝撃的な…

  • 1

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 2

    日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう

  • 3

    嘘つき大統領に「汚れ役」首相──中国にも嫌われる韓国

  • 4

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 6

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで…

  • 7

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 8

    「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

  • 9

    韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が

  • 10

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!