コラム

9.11からスリランカテロまで──ムスリムエリートのゆがんだ使命感

2019年05月11日(土)11時40分

その中でビンラディンは持ち前のカリスマ性でリーダーとなり、屈強な男たちを団結させた。後にサウジ政府が「異教徒」である米軍駐留を認めたため、彼はアルカイダを結成し、アメリカとも戦った。ビンラディンの盟友にして、アルカイダの現指導者アイマン・アル・ザワヒリもエジプトの上流階級の家庭に生まれ、カイロ大学医学部を卒業し、修士号を有する知識人だ。

指導者だけでなく、実行犯もまたエリート出身であることが多い。11年に起きた米同時多発テロの実行犯、モハメド・アタもそうだ。エジプト人のアタはカイロ大学工学部を卒業後、ドイツの名門ハンブルク工科大学で修士号を取得した。

アタはアルカイダのメンバーではなかったが、ムスリムの同胞が世界で不条理な立場にあると認識し、イスラム原理主義思想に傾倒していった男だ。飛行機を操縦して世界貿易センタービルに突進していったのにはそうした思想背景がある。

国際テロで先頭に立つのは貧困層の青年ではない。むしろ西洋列強による近代化の恩恵を受けながらも、植民地からの解放を求めるエリートとしての使命感――その複雑な心理を直視することがテロ時代の今を考える一歩となる。

<本誌2019年05月11日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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