コラム

沖縄の次は北海道? 日本の無防備な国境に迫る中国

2018年05月01日(火)16時15分

中国・王毅外相(左)の言葉を聴く日本の河野外相 REUTERS

<王毅外相が示した李克強首相の訪日計画の狙いとは? 中東にも歴史にも無関心な日本政治は領土を守れるのか>

イスラエルとパレスチナの度重なる衝突について、日本の国会で議論されたという話を聞くことはまずない。「シリアのアサド政権はどうして化学兵器を使うのか。被爆国の日本は化学兵器の使用を容認していいのか」と発言する日本の政治家もほぼ見掛けない。

遠いアラブ世界について勉強する意欲もないし、ユダヤ教やらイスラム教やら区別するのも面倒くさい、と思っているのだろう。日本の国会議員は世界的に高い報酬を国から保障されているが、野党議員の最大の関心事は現政権を打倒するのにあらゆるスキャンダルを探すことだ。

窮地に追い込まれた安倍政権に助け舟を出すかのように、中国の王毅(ワン・イー)外相が4月15日、約8年ぶりの日中経済対話のために日本を訪問した。3月の全国人民代表大会で晴れて国務委員に昇格して出世を果たした後の再訪だ。

04~07年に駐日大使を務めていた頃は、日本の政財界の有力者らを低姿勢でゴルフに誘い、日本人以上に深々と頭を下げていた。今や、日本風のお辞儀も「中国人のくず」がやる行動で、「精日(精神的日本人)」だ、と激しい言葉で批判しているが。

王は5月の日中韓首脳会談について、日本側と李克強(リー・コーチアン)首相訪日の詰めの調整を行ったという。日程で注目すべきは李が東京で首脳会談を終えた後、北海道を訪れ、高橋はるみ北海道知事との面談や経済視察などを予定していることだ。

一国の首相がどこを訪問しようととやかく言う筋合いはないかもしれない。だが中国は日本やアメリカと異なり、独裁体制を敷く専制主義国家で、日米の共通の脅威でもある。李は沖縄にも足を運びたいだろう。尖閣諸島を中国領と主張しており、沖縄県への介入も諦めていない。

翁長雄志知事を北京に誘っては「中国と琉球王朝との伝統的な絆」を持ち出し、親中派に期待を寄せてきた。沖縄県もかつて琉球が中国帝国に恭順を誓った印である龍柱を建ててまで、中国人観光客を歓迎している。だが結局、李は日本を刺激する沖縄県ではなく、北海道を訪問することとなった。

北海道はリベラル派が強く、道南を中心に人口の少ない各地の土地が知らぬ間に中国資本に買収されていても、特に警戒する姿勢を見せていない。沖縄では国境地帯の自衛隊施設付近に外国資本が進出している昨今、北海道は無防備だとみていい。

またアメリカで複数の孔子学院がスパイ活動容疑でFBIから捜査を受ける一方、釧路では孔子学院を誘致する話も出るなど米同盟国の日本は鈍感で、国際的な潮流と逆行している。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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