World Voice

南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

日本公開決定!17歳のトランスジェンダーを描く『私はヴァレンティナ』に込められたもう一つのメッセージ

日本公開が決定したブラジル映画『私はヴァレンティナ』(公式サイトより)

4月1日から、日本の劇場で順次公開が始まったブラジル映画『私はヴァレンティナ』。
ブラジルの作品が日本の一般的な劇場に全国規模で上映されるのは比較的珍しいということを抜きにしても、是非ご視聴いただきたい素晴らしい作品だ。本作はサンパウロ国際映画祭を始め、数多くの映画祭で受賞している。

近年、トランスジェンダーを描いた作品は増えつつあるが、この作品は「トランスジェンダーが葛藤の中、自分の生き方を主張する」という、誰もが思いつくような話では終わらない。
作品を観ることで多様な性に対する考え方はもちろん、自分や周りの人々が無意識に何らかの偏見を持っていないか、考え直す機会になるのではないかと思う。

|偏見の中で生きる17歳のトランスジェンダー

嘘だらけの青春はいらない----。
ブラジルの小さな街に引っ越してきた17歳のヴァレンティナ。彼女は出生届の名であるラウルではなく、通称名で学校に通う手続きのため蒸発した父を探している。未だ恋を知らないゲイのジュリオ、未婚の母のアマンダなど新しい友人や新生活にも慣れてきたが、自身がトランスジェンダーであることを伏せて暮らしていた。そんな中、参加した年越しパーティーで見知らぬ男性に襲われる事件が起きる。それをきっかけにSNSでのネットいじめや、匿名の脅迫、暴力沙汰など様々な危険が襲い掛かるのだった...。
『私はヴァレンティナ』公式サイト引用

物語が描かれるのはミナスジェライス州の田舎町。
ブラジルは世界最大規模のLGBTパレードが行われる国として知られているが、田舎では彼ら、彼女らに偏見を持つ人々は多い。

彼女たちは周囲にカミングアウトする勇気がない訳ではない。
カミングアウトすることで仕事を失ったり、学校に行けなくなったりと、日常的な生活に支障をきたすからだ。

この映画の脚本は、ソーシャルメディアを通してトランスジェンダーの生き方や在り方を調査し、約50人の該当者にインタビューを行った実際の体験談などをヒントに書かれている。スクリーンデビューを飾ったチエッサも、トランスジェンダーの一人だ。
彼女はゴイアス州(ブラジルの内陸部)の田舎町で育ち、葛藤の中で生きてきた。

|"トランスジェンダーYoutuber"から映画デビュー

チエシータことチエッサは(映画公式サイトではティエッサ・ウィンバック表記)、79万人のチャンネル登録数を持つトランスジェンダーのYoutuber。カッシオ監督と製作スタッフによって主役のヴァレンティナ役に抜擢された。
大学では生物学を専攻したが、5年間演劇の勉強をした経験を持つ。

チエッサが自分の性に疑問を抱くようになったのは16歳の頃だった。
思春期になり、周りと同じように自然に女の子とデートをするようになったが、2人きりになることに違和感を感じ、デートには常に男友達を呼んでいたそうだ。高校を卒業した頃、パーティーで男性とキスをした時に"男性が好きだ"という自分に気づいたが、その時は自分をゲイだと思っていた。

チエッサは思春期の頃から既にフェミニンなスタイルが好きで長髪だったが、"女性の服を着る"という事にはまだ抵抗があった。
しかし、それが自分が育った小さな町で作られた偏見だと気づくと、ワンピースを着てベアトリス(女性の名前)と名乗り、隣町のパーティーに行くようになる。
ようやく、自分がトランスジェンダーである事に確信が持てたのである。

チエッサのYoutubeが人気な理由は、トランスとしての生き方を発信するだけでなく"女の子"なら誰でも一度は悩むような恋愛や容姿、家族との隔たりに関する話が多い。
自分がありたい容姿になるために努力している様子だけでなく、交際関係も包み隠さず暴露している。
同じ悩みを持つ人はもちろん、トランスの家族や友人がいる人にも、様々な性の在り方や生き方を理解する助けになるだろう。

|家族や友人はわかってくれる

本作の中で、力強い姿を見せてくれるのはヴァレンティナの母、マルシアだ。
夫が失踪した中、病院に勤めながらヴァレンティナを育て、彼女が生きたいように生きられるように一緒に立ち向かう。

トランスジェンダーというのは社会だけでなく家族からも見放されるケースが多く、実際にヴァレンティナ役のチエッサも、生みの母親の顔は知らず、自分を理解できない父親に暴力を振るわれながら育っている。
確かに、トランスジェンダーとその家族の関係性というのは非常に複雑なものだ。
そんな中、本作では"いつか家族はあなたを理解してくれる"という希望を与えてくれたように感じた。
ゲイや未婚の母といったヴァレンティナの友人たちにも、時代の流れを感じさせられる。

本作が伝えたいテーマは、"セクシャルマイノリティとされてきた人々が、社会で差別されることがなく生きていける日々が一刻も早く来るように"というのは間違いない。
では、一体誰がトランスジェンダー(本作の場合はトランス女性)を差別しているのだろう。
その典型的な重要人物が本作には登場する。

--ここからは少々ネタバレとなるのでご了承をください--

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ