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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

Sushi(寿司)にSaquê(酒)、ブラジルでみつけた日本食とは

寿司盛り合わせを頼むと写真のような組み合わせが提供される(Photo by iStock)

私は普段からUberの運転手さんと世間話をするのが好きだ。
先日、ブラジリアの日本大使館へ向かう車内で、運転手さんが「娘が日本食が大好きで、日本へ行ける日を夢見ている。YouTubeで日本語を勉強しているよ。」と話してくれた。

こういった話を聞くのは何回目だろう。
近年の日本食ブームは驚くほどで、音楽院がある田舎町にも次々と新しい日本食レストランがオープンしていたし、友人の誕生日パーティーがある度に日本食を作ってくれと言われ、何度太巻きを作ったことか。(日本にいた頃は巻き寿司なんて作ったこともなかったのに)
それだけ日本食はブラジルで馴染みのあるものとなってきているのだが、現地で"Comida Japonesa"(日本食)というと、寿司を指していることが多い。
このブラジルの寿司がなかなか面白いので紹介したい。

|見た目重視⁉華やかな寿司が大人気

ブラジルで寿司をはそのまま"Sushi"と呼ばれる。
クレープのようにカジュアルな見た目の"Temaki"(手巻き)や、見た目が華やかな巻き寿司が人気で、刺身や握りは苦手という人もいる。元々、生魚を食べる習慣がないブラジル人からすると、刺身や握りはシンプルすぎて生魚の味がダイレクトにくるから苦手なんだそうだ。
巻き寿司はカルフォルニア・ロールから影響を受けた"Uramaki"(裏巻き)と呼ばれるご飯が外側、つまり裏になっているものが目立っている。ブラジル人に馴染みがない海苔が内側になっているため、抵抗なく食べられるとか。
また、"Hot Roll"(ホットロール)という太巻きに衣をつけて揚げたものも人気が高く、これには"Tarê"(タレ)と呼ばれる甘じょっぱいソースをつけて食べられる。ちなみにこの甘じょっぱい味はブラジルの料理にはないため、苦手な人も多いが、ハマる人は寿司にもタレを付けてしまう程だ。

お米は現地の日本米を使っており、ネタはサーモンやチラピアと呼ばれる鯛に似た淡水魚が殆ど。
太巻きや手巻きにはクリームチーズがたっぷり入っている。
その他にはカニカマや鮪も使われるが、びっくりするのがフルーツ寿司。
ブラジルならではのマンゴーやイチゴ、キウイが丸く握られたしゃりに可愛らしく乗っているから恐ろしい。
更にはチョコレートやヌテラ寿司もあるが、勇気が出ずに未だに食べた事がない。

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左手前がヌテラ&バナナ寿司チョコレートスプレーがけ(photo by Aika Shimada)

|日本食を食べるならRodízioシステムがお得

日本食はブラジルで比較的高価でお洒落な食べ物。カップルは記念日に食べに行ったりしている。
多くの日本食レストランで"Rodízio"と呼ばれるシステムが選択できる。
これは所謂食べ放題で、テーブルに座りながらメニューにある料理を選んで店員さんに持ってきてもらうシステムだ。
メニューには寿司の他に、春巻きや餃子、鉄板焼き、前菜には酢の物やしめじの醤油炒めが定番。バラエティ豊富なお店なら生姜焼きや唐揚げ、トンカツなども食べられる。
このRodízioシステムで適当に寿司の盛り合わせを頼むと、例のマンゴーやチョコレートの寿司が一緒に舟盛りに乗せられてくるという訳だ。
もちろん単品での注文も可能で、デリバリーサービスの利用や、ショッピングセンターのフードコートなどでは量り売りで食べることもできる。

|肝心なお味は?

サーモンにクリームチーズ、揚げた巻き寿司、日本の寿司職人が見たら腰を抜かすようなブラジルの寿司なのだが、実はけっこう美味しい。(と私は思う)
クリームチーズだけでなく、添えられている薄切りのレモンや揚げたケールなどバランスが良い。
しかし、唯一悲しいのが、酢飯が上手に作れていないレストランが多いということだろう。
米はブラジルの主食であるが、一般的にニンニクや玉ねぎと一緒に炒めて調理されており、出来上がりはパラパラした感じである。
日本米のように粘り気がありながらも粒がたつご飯とは全く違う。そのため、せっかく日本米を使っても酢飯を作る際に米粒を潰してしまったり、ふんわりとしゃりを握る感覚がわからないのかもしれない。
サンパウロで食べた日本人や日系人が握っているお寿司を何度か頂いたことがあるが、しゃりが美しく、ほんのりわさびが効いていることもあり、美味しくて涙が出る。
ちなみにブラジルの一般的な日本食レストランで食べられる寿司は全てさび抜きであるが、頼めばわさびを持ってきてくれる。

|日本食と共に甘~い日本酒も流行中

この記事を書こうと思い、久しぶりにブラジルの寿司を食べるために近所のお店でも一際目立つ日本食レストランに行ってみた。パンデミック以来、初の外食である。

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見た目ですぐわかる日本食レストラン。オープンスペースはブラジルで人気。(photo by Aika Shimada)

提灯形の街灯に桜という如何にも外国人からみた日本を象徴するような外観。(もちろん、全ての日本食レストランがこういう訳ではない)
店の名前には日本語が使われることが多く、"Banzai"、"Kanpai"、中には"Gaman"なんてものもある。
今回は2人前の寿司盛り合わせを頼んでみた。

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上/ 人気の裏巻きはクリームチーズたっぷり。握りの右端は魚の皮をカリカリに揚げたもの。
下/ 噂の揚げ寿司ホットロール。中はサーモンとまたしてもクリームチーズ。衣がサクッとしていて美味しい。(photo by Aika Shimada)

かなりボリュームがある。
また、最近は寿司だけでなく"Saquê"(酒)の認知度も上がってきている。
ブラジルで酒は、お好みのフルーツ、砂糖、氷と一緒に甘~いカクテル"Saquepirinha"(サケピリーニャ)として飲まれることが多い。
元々、日本移民が日本酒を飲めるようにという願いから創立され、今はブラジル各地で購入可能となった東麒麟の酒を使ったスパークリング酒があったので注文してみた。味は洋ナシ。アルコール度数7%ながら、甘く、ほんのりとして炭酸が美味しい。

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東麒麟の日本酒はスーパーなどでも購入可能。カクテルにして飲むのが一般的(photo by Aika Shimada)

気になるお値段だが、寿司の盛り合わせ、スパークリング酒、生ビールジョッキ一杯で合計100レアル。現在のレートで日本円に換算すると約2,050円だが、ブラジルの外食事情から見たら決して安くはない。
しゃりはぎゅっと潰されていたが、全体的に丁寧に作られており、美味しかったので大満足。

|日本食が知られるようになったのはつい最近の話

1908年にブラジルは日本からの移民を受け入れ、現在日系人の人口が最も多い国であることはこれまでの記事にも書いているが、移民の人々が持ち込んだ日本きゅうりや大根、日本米、醤油や味噌などは、長い間移民やその子孫である日系人が食べるものだった。
日本食が非日系人にも食べられるようになったのは1990年代と110年以上ある日本移民史の中では最近の話である。

1997年にサンパウロ市内にオープンしたレストラン・アオヤマは日本食のRodízioシステムのパイオニアで、その後、更に日本食が広まったと言われている。 レストラン・アオヤマは現在サンパウロ市内に7店舗あり、2018年にはサンパウロのベストガストロノミー日本食部門で1位に輝いている。お値段は2021年9月現在、一人当たり119.90レアル、現在のレートで約2,450円で好きなだけ食べることができる。

このように、日本食は晴れてブラジル人の外食もしくはデリバリーの選択肢の一つに仲間入りしたのだが、日本人や日系人による"本当の日本食"を語ったSNS投稿などが話題を呼び、"日本の日本食"が気になり始めるブラジル人も少しずつ増えている。
サンパウロ市にある東洋人街リベルダージにある日本人や日系人が営むレストランでは、日本で食べられるような定食やラーメン、たこ焼きなどが注目され、最近では日本食好きな人々の間で"Izakaya"(居酒屋)という言葉も通じるようになってきた。

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リベルダーデにある博多一幸舎のブラジル支店では博多本場のとんこつラーメンが味わえる(photo by Aika Shimada)

また、同じくサンパウロ市内に複数展開している牛丼チェーン店すき屋も、私がブラジルに来た2014年当時と比べて非日系ブラジル人のお客さんが増えたように感じる。
こういった日本食ブームはレストランだけではなく、日本食材を購入できるスーパーにも繁栄をもたらしている。

|日本食は新たな日本文化の象徴となるか

ブラジルは広いため地域によって食文化も異なるが、サンパウロに至ってはイタリア系移民の影響もあり、食事の味付けはニンニク、玉ねぎ、塩が基本。そのため醤油や味噌、テリヤキソースのような味付けは未知の世界で、食わず嫌いな人も沢山いる。
その他にも、生魚や海苔への抵抗を減らすためにブラジル化したSushiは私達のしっている寿司とは程遠いかもしれない。
やはり、"日本の日本食"の美味しさも知ってほしいというのが本音ではあるが、アニメと漫画以外に日本の話題が日常的に上がることは良い傾向のようにも感じる。

現地で親しまれる味に変化していくことはよくある事。
多少のブラジル化は承知の上で、今後、少しずつ日本食のラインナップが増えていく事を期待したい。

最後に。
私のように異国で暮らす身としては、移民の人々のおかげで日本食材が手に入るようになり、今では日本食ブームのおかげで醤油や乾麺、味噌や海苔が一般的なスーパーで買えるようになったのは誠ににありがたいことである。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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