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シアトル発 マインドフルネス・ライフ

長野弘子|アメリカ

今こそ笑いのパワーを! 〜 注目のコメディアン、トレバー・ノア

「ザ・デイリー・ショー」のYouTubeチャンネルより。 https://www.youtube.com/channel/UCwWhs_6x42TyRM4Wstoq8HA

 2020年を振り返ると、誰もが新型コロナウィルスの猛威について語りたくなるだろう。2021年もまた、新型コロナの話題がきっとたくさん出る事だと思うが、せめて地に足のついた落ち着いた日常生活を送る事ができるよう切に願う。2021年の目標の一つに「心の底から笑えるような毎日を送りたい!」という目標を掲げた。そんな「笑い」のパワーを最大限に発揮して、アメリカで大活躍している人気コメディアン、トレバー・ノアを紹介したい。

「ザ・デイリー・ショー」のツイートより。司会を務めるトレバー・ノアが、1918年のスペイン風邪と2020年のCOVID-19の流行に対して、米国政府が似たような対応を取った事を揶揄している。

 トレバーは、人気風刺ニュース番組「ザ・デイリー・ショー」の司会を務める南アフリカ出身の36歳。異人種間の交際や混血が許されないアパルトヘイト下の南アフリカで、白人のスイス人男性と黒人女性の間に生まれたトレバーは、生まれながらに違法な存在だった。彼の自伝『トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ?』は名著なのでぜひ読んでほしい。想像を絶するような差別や暴力、貧困の中で育ったトレバーが、力強く生き抜いて来た事に、衝撃を受ける。その中でも母の存在は大きくて、どんなに過酷な状況にあっても「笑い」のパワーで前向きに人生を切り開いてきた。彼のコメディが面白いだけではなく、人間愛を感じさせる強さがあるのは、彼の壮絶な半生がベースになっているのだと実感させられる。

 トレバーにとって笑いとは、食事や睡眠と同じくらい生き抜くために不可欠なものだったのだろう。笑いには、ストレスを解消して免疫機能を高める絶大な効果があることがわかっている。笑いにより、通常の呼吸の3倍量の酸素が体内に取り込まれ、ガン細胞やウイルスを退治する50億個のナチュラルキラー(NK)細胞が活性化。脳の働きが活発になり、記憶力もアップする。血行を促進し、自律神経のバランスを整えるほか、モルヒネの6倍以上の強力な鎮痛作用を持つ脳内の神経伝達物質、エンドルフィン分泌も促す。

 笑いを表現する言葉には、大笑い、高笑い、爆笑、愛想笑い、薄笑い、作り笑い、冷笑、嘲笑、苦笑、微笑、照れ笑いなど30語ほどあり、笑いの役割も楽しさ、面白さ、社交、緊張緩和、攻撃など多岐にわたる。ユーモアのセンスのある人は知能指数が高いとの調査結果も。医療の現場では、小児病棟を訪れて子どもたちを笑わせ、元気付けるクリニクラウン(臨床道化師)という職種がある。これはアメリカ人のパッチ・アダムス医師が始めたもので、ロビン・ウィリアムス主演で映画化もされている。大声で笑いながらヨガを行うインド発祥の「笑いヨガ」も世界中に広がっており、以前体験した事があるが、心身共にスッキリ軽くなり、体もポカポカ暖かくなったのを覚えている。笑いのパワーを実感した。

 別段楽しい気分ではない時も笑顔を作るだけで、表情筋から脳に笑顔のシグナルが送られて脳が楽しいという感情を感知して楽しい気分になる。「顔面フィードバック仮説」に基づくもので、顔だけに限らず、体の動きが感情に影響を与える事が研究でわかっている。たとえば、両腕を高く上げたり腰に手を当てたりといった強そうな「パワーポーズ」を2分間キープするだけで、男性ホルモンのテストステロンが20%増加し、ストレスホルモンのコルチゾールが25%減少するため、前向きな気持ちになる。その逆に、体を縮めて弱々しいポーズを取るとテストステロンは10%減少し、コルチゾールは15%増加する。毎朝、パワーポーズを取るのを習慣にするのもいいだろう。また、ため息を数回大きく「はぁ~」とつくだけで、不思議と元気がなくなってくる。次に、「はっはっは」と大声で笑うフリをすると、実際に笑ったのと同様の効果が現れ、元気が戻ってくる。

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YouTube poptechチャンネルより。「パワーポーズ」を提唱している社会心理学者のエイミー・カディの講演。

 人間の脳には、相手の気持ちや行動を、自分自身の反応であるかのように感じるミラーニューロンという細胞がある。この脳細胞により、親が楽しい気持ちでいると子どもも楽しくなり、その逆にイライラしていると子どももイライラする。家族や友人がムスッとして不機嫌な様子でも、自分は笑おうと決めて楽しいことにフォーカスすると気持ちが軽くなる。

 気分が落ち込んで笑う余裕なんてないと思っている人もいるかもしれない。暗闇の中にいるように不安を感じる時もあるだろう。だけど、闇にほんの少しでも光が差し込めば、そこはパッと明るくなる。誰かに頼るのでなく、自分が光になると決めて、フリでもいいので大きな声で笑ってみよう。笑うと表情筋が鍛えられて美容効果にもつながる。笑顔の人は好感度が高いという調査結果も。

 「笑う門には福来たる」。2021年の年初め、まずは率先して笑いのパワーを活用してみてはいかがだろうか。

 

Profile

著者プロフィール
長野弘子

米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、15年間ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。2011年の東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウェスト大学院でカウンセリング心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える人々にセラピーを提供している。悩みを抱えている人、生きづらさを感じている人はお気軽にご相談を。


ウェブサイト:http://www.lifefulcounseling.com

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