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シアトル発 マインドフルネス・ライフ

長野弘子|アメリカ

アメリカでも増える自殺 ~連鎖自殺を防ぐ取り組み(2)

 自殺予防の取り組みとして、セラピストはクライアントに自殺を考えたことがあるかどうかを聞き、希死念慮がある場合はしかるべき対応を取ることが必要となる。自殺を防ぐために効果的とされているのが「安全計画(Safety Plan)」の作成だ。安全計画(危機計画:Crisis Planとも呼ばれる)とは、自殺予防のための対策が書かれた通常1~2ページ程度の短い文書で、大まかに以下の項目から構成される。

1)死にたいと思う状況や引き金となるような言葉や考え

2)希死念慮が起こった場合に自分でできる対応策

3)気をそらすために連絡できる人のリストと連絡先

4)自殺企図など差し迫った危険に対して病院に連れて行ってくれたり支援してくれる家族や親しい友人のリストと連絡先

5)セラピストや主治医、病院等の連絡先

6)銃器やナイフ類を安全な場所に保管するなどの実行計画

 以下は、安全計画のサンプルである。
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 アメリカでは州や郡により多少の違いはあるが、大手のメンタルヘルス機関は地域の学区と提携してサイコセラピストを学校に派遣し、セラピーを必要とする生徒に学校でセラピーをするような制度がある。私が働いていたメンタルヘルス機関もセラピストを学校に派遣しており、私の担当は同じ学区内にある4つの高校だった。その中の一校では、毎年のように自殺者が出ており、自殺の連絡が回ってきたらその学校に通っているクライアントにできるだけ早い段階で会って話を聞き、その際に自殺行動(希死念慮や自殺企図)や自傷行為のリスクを診断することが必須になる。

 クライアントから希死念慮を報告された場合、死にたいと思う気持ちの程度と頻度、自殺の手段や計画を具体的に考えているかを確認して、即座に対応が必要だと判断した場合には警察や保護者に連絡して病院に搬送する。自殺の手段や計画がなく差し迫った危険がないと判断された場合は、「安全計画」をクライアントと一緒に作成し、そのコピーを渡して希死念慮が起こった場合は安全計画を実行するように約束してもらう。自殺未遂や自殺企図により救急病院に運ばれた患者の調査で、安全計画を作成した患者とそうでない患者の半年後の予後を比較したところ、安全計画を作成した患者の自殺行動が45%軽減したという結果が出ている。30-40分という短い時間で作成でき、きわめて効果的な自殺の予防法だ。

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 自殺について話すことは多くの国や文化でタブー視されているが、自殺についての理解を深めてオープンに話せる環境を作ることが自殺率を下げるのに効果的であると多くの調査で報告されている。そのため、安全計画を作成する時も、自殺に関しての俗説や誤った認識を正していくための心理教育、さらに家庭や学校、職場、主治医などと連携を取りながら支援していくことが重要となる。

 希死念慮のある人の多くは、家庭で恐れや不安、孤独感、絶望感などの辛い気持ちをオープンに話すことができない場合が多く、家族に連絡して驚かれるケースもある。「私があなたの立場だったら、きっと同じ気持ちになると思う」と共感してくれる人が一人いるだけでも気持ちが楽になる。次に死にたいと思う気持ちが湧き上がった時、その感情と行動の間に少しでも隙間を作ることができれば、安全計画にもとづいて違う選択肢を選ぶ可能性が高くなるのだ。

 次回は、思考・感情・行動を分けて考えることで効果的に自殺を予防するためのセラピー療法「認知行動療法(CBT)」について取り上げる。

 

Profile

著者プロフィール
長野弘子

米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー。NYと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の雑誌に記事を寄稿。東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。自然災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするため大学院で心理学を専攻。現地の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、さまざまな心の問題を抱える多くの子供やティーンエイジャーに対してセラピーを提供している。

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