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農・食・命を考える オランダ留学生 百姓への道のり

森田早紀|オランダ

茹でたお米、無味の「チーズ」 オランダ留学生活

(2019年4月 筆者撮影 てまり寿司に「So cuuuute!」「Kawaii!」との歓声が沸く)

留学前に準備したことの一つが、鍋でお米を炊く練習だった。

学生シェアハウスに炊飯器がなかった場合、そして炊飯器が高価だった場合に備え、水加減や火加減・蒸らし時間等を色々試して極めた。ついでに実家になぜかあった小さな土鍋を使って、一人前のご飯を炊く練習もした。オランダに到着し、案の定シェアハウスには炊飯器がなかったため、鍋でお米を炊いて食べた。慣れない環境では、ジャポニカ米と味噌汁が食べられるだけでどこかホッとする。

数日後、早速できた友達たちと夕飯を一緒に作ることになり、家にお邪魔した。

えっ? 開いた口が塞がらなかった。

鍋にお湯をたっぷり沸かし、お米を入れてパスタのように茹でる。最後にザルに空けて、余分な水を捨てる。確かに、バスマティライスのようなパラパラなお米なら可能だが、粘り気の強いジャポニカ米ではそうもいかないだろう。というかそれ以前に、違和感満載のまさにカルチャーショックだった。

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(2018年8月 筆者撮影 留学生活が始まって比較的すぐに参加した持ち寄りパーティー)

オランダに来て時々聞かれるのが、SUSHI RICEの作り方を教えて、どうすればふっくら炊けるの?ということだ。どうも水や火加減・時間調整が難しいらしく、べちゃべちゃになってしまうとか。ジャポニカ米を炊くのは職人技らしい。

このような質問を受けるのは専ら、持ち寄りパーティーに和食、特に巻き寿司を持っていく時だ。

やっぱり無難な巻き寿司

私の大学では、新学年が始まって1か月目に国際ウェルカムパーティーが開催される。昨年は感染症に関する規制の影響で中止となってしまったが、今年は幸い開くことができた。一人一品持ち寄り制だ。

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(2021年10月 イベントスタッフ撮影 大学のウェルカムパーティーにて)

何を作ろうか悩んだ。数日、考えていた。でもなんだかんだ言って、一番定番なものが一番ウケることが多い。皆がその定番メニューを食べたことがあるとは限らないし...。

だから今年も巻き寿司を作っていった。留学生活4年目にして、何回目だろうか?もう7回以上は作っている気がする。でも今までで一番美味しく、美しくできた気がする。

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(2021年10月 筆者撮影)

初めの頃は、巻きが緩くて崩れてしまいそうだったり、材料費をケチって五味や食感のバランスに欠けていたり。時間をかけて花形のものを作ったり、ビーツでピンク色にしたご飯を使ってみたり。巻き寿司以外の寿司もあるのだと伝えたくて、てまり寿司やちらし寿司、手巻き寿司を作ってみたり。

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(2019年1月 筆者撮影 ビーツで色付けをしたご飯で作った、花形巻き寿司)

手抜き料理は親友の特権

何を持って行こうか、一番悩むのは2~4回目くらいの、同じようなメンバーでの持ち寄りパーティー。

再び巻き寿司を持っていく訳にはいかない。でもザ・日本の料理を披露したい。だからちょっと凝ったものを考える。お好み焼き?ラーメン?餃子?

普段作り慣れない料理で失敗し、慌てて作り直したこともあった。

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(2020年6月 筆者撮影 まあまあの出来の水無月。夏越しの大祓の際に食べる和菓子)

しかし食事を何度も共にしている親しい友達になると、これはまた事情が違う。

日々食べる、手抜き料理が食べてみたいと言われる。英米ハーフの友達と、ミャンマー・中国ハーフの友達と3人で話していて、それぞれのズボラ料理を交換っこしたら、楽しそうじゃないかという話になった。野菜と肉のワンポット・チリコンカン。醤油や薬味に一晩漬けて焼いた豆腐。野菜をオーブン焼きにしたり蒸したりして胡麻味噌だれを添えたもの。

気負わないからできる、ホッとする味。親しくなった友達の特権、かな。

無味のチーズ

そんな親友2人と散歩をしている時、こう聞かれた。今、一番食べたい母国の料理は何か、と。

私の好みは季節によって随分と異なるが、その時は真夏の暑い日だったので、真っ先に浮かんだのが冷や奴。生姜にネギに紫蘇にミョウガ、薬味を山盛り乗せて、醤油を回しかけて食べたい、と。するとこのようなコメントが来た:豆腐って、味がないよね。無味のチーズとして欧米にも広められたくらいだし。だから濃い目の味付けのスポンジとして使える、と。

いやいやいや、確かにこの辺のスーパー(アジア系食品店を含む)で手に入る豆腐は味がない、もしくは臭いが、それだけが豆腐ではない。ぜひとも本物を食べてほしい。ほんのり甘い、大豆の味がする豆腐を。私自身も恋しい。美味しいお豆腐が食べたい。

豆腐に限らず、他の食品にも当てはまる。特にゴマ、海苔、お米。日本の味にはかなうものは稀だと思う。

こちらに来て初めての買い物で、胡麻を一袋買ったのを思い出す。家に帰っていざ、ご飯にかけて食べてみたら...薬品のような味がした。炒っても香ばしさは増すことがなく、ぷっくり膨らんだ胡麻の食感もない。ご飯を混ぜなくてよかった、大きい袋を買わなくてよかった。食品を無駄にするのは嫌いだけれど、どうしようもないのでごめんなさい、と捨てた。薬品のような味がしたのはあの時だけだったが、その後オランダで試したものはどれも香ばしさ・ぷっくりさに欠けていた。

それ以来、日本にいる家族に荷物を送ってもらうたびに、胡麻を入れてもらっている。

留学はあと一年。帰国したら真っ先に何を食べようか。

オランダの食材で恋しくなるものは何だろうか。

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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