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森田早紀|オランダ

オランダの障がい者雇用 2015年施行の社会参加法について

(イメージ写真 iStock - lisegagne)

働ける人は皆、仕事に!(Iedereen met arbeidsvermogen aan het werk!)

このようなモットーで、オランダは2015年1月、3つの旧制度を置き換える形で新たに社会参加法「Participatiewet」が施行された。結論から言うと、この制度は失敗した。今回の記事では、社会参加法の目的や仕組み、結果を簡単に解説する。

ちなみにこのテーマについて、歴史的背景や関連組織、日本の制度との比較などを日本語で解説しているレポートを見つけたので、詳しく知りたい方はこちらから。今回の記事の日本語訳の参考にもした。2017年度の報告書のため、結果については書かれていない。

制度改定の背景

この法案は、連立与党のPvdA(労働党)が提出し、議会で可決されたものだ。置き換えられたのは、1. 就労・社会扶助法(WWB)2. 保護就業法(WSW)3. 若年障がい者法(Wajong)の一部。

一般就労を促し、社会給付の受給者と保護雇用の数を削減しようという意図があった。これらは政府にとって高コストだからだ。また、複数の旧制度を一つにまとめることで、自治体や雇用主にとってわかりやすくし、障がい者雇用を促進する効果も期待された。

制度を実施するのは自治体(市)。国からの資金をもとに、方針や取り組みの詳細・予算案を決める。

新制度の対象と取り組み

社会参加法の対象者は5つのカテゴリーに分類される。

① 旧・就労社会扶助法(WWB):最低賃金を自力で稼ぐことができず、手当てを受け取っていた。WWBは自治体の担当だったため、対象者は新制度でも引き続き自治体の管轄下に置かれる。このグループに含まれるのは主に少数民族の人、女性、比較的年齢が上の人、低学歴の人。

② 働くことのできる若年障がい者:全国組織「労働者保険管理局(UWV)」が管轄する若年障がい者法(Wajong)で手当てを受け取っていた。2015年1月以前からの受給者は引き続きUWVの管轄下に置かれる。また、働けない若年障がい者もWajongの対象となるが、それ以外の働ける若年障がい者は新制度で自治体が担当する。

③ 旧・保護就業法(WSW)の対象者:就労したり働き続けたりするのに特別な支援を必要とする障がい者。2014年以前に保護就労についていた人は引き続きWSWの対象となるが、待機名簿に載っていた人や新たに登録した人には、社会参加法が適応される。つまり従来の保護雇用への新たな就労は無い。また、新制度における保護就労も最小限に抑え、一般就労への移行を支援するものとする。

④ 社会支援を受け取っておらず、UWVに求職者として登録されている人:例えば資産総額が上限を超えているなど、手当てを受け取る条件を満たしていない。社会参加法では、自治体が求職活動の支援をすることとなる。

⑤ 特定の社会支援の受給者:一般遺族年金(ANW)・高齢部分障害失業者給付(IOAW)・高齢部分障害前自営業者給付(IOAZ)の受給者などが含まれる。社会参加法以前・以降共に自治体の管轄内。

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(イメージ写真 iStock - AzmanL

これら5つのグループに分類される社会参加法の対象者は、何かしらの仕事をできる人。就職する努力をすることが支援を受ける条件となる。一つ興味深いと思ったのは、日本で障がい者雇用というと「身体障がい者」「知的障がい者」「精神障がい者」などと障がいの種類で分類されるのだが、オランダは「仕事をこなす際の障害」や「一般の労働市場から離れている人」と広義に解釈していることだ。

彼らのうち、自力で最低賃金を稼げない、つまり最低賃金を下回る生産性の者は、「雇用創出協定」のターゲットグループとして登録することができる。

雇用創出協定とは、今まで制定されていた法定雇用率に代わって制定されたもの。民間と公共部門がそれぞれ2026年までに、10万人と2.5万人分の雇用を生み出すことで合意した。もしこの目標が達成されていなければ(目標数値が毎年設定される)25人以上を雇う会社に雇用割当制を実施し、満たさなかった場合は罰金が科される。

事業主及び自治体は、ジョブコーチ、最賃補填、トライアル雇用などを「道具」として使って雇用を促進する。

効果は果たして?

さて、この社会参加法の効果が2019年11月、政府系シンクタンクの社会・文化研究所(SCP)によって発表された。これによると、思ったような成果は得られなかったらしい。

雇用主の6割は「対象者を雇う準備はできている」と答えたが、実際に雇用しているのは2割にとどまる。

若年障がい者の就業者数そのものは増えたが、彼らの就労所得は減り、パートタイム雇用や臨時雇用の割合が増えた。

就労・社会扶助法(WWB)の受給者は、2018年に44万人ほどいて、補助を受け取れるグループの中では一番大きい。彼らが就労先を見つけるチャンスは以前は7%、新制度導入後は8%。補助を「卒業する」確率も15%から16%になっただけで、ほぼ改善していない。

さらに、旧・保護就業法(WSW)で保護雇用されていた人たちは、雇用の機会が減少した。2010年から13年に職探しをしていた者が4年後に働いている割合は55%だったのに、2014年に職探しをしていた者に関しては、39%に下がっていた。

なぜ、これほどにも残念な結果だったのか。その原因と今後の方針は、次回の記事で掘り下げる。

(4月4日追記:その記事がこちらです)

日本でも、障がい者雇用と福祉の重要性や縦割りの問題が注目されている中、オランダの制度から学び、日本の社会構造や国民性などに合った制度・考え方を導き出せるよう、今後も探究し続けようと思う。

おまけ

社会保障制度や雇用制度に関する法律を調べていた際、条文は次のような公布文で始まることが目に留まった。(社会参加法の条文はこちら

(原文)

Wij Beatrix, bij de gratie Gods, Koningin der Nederlanden, Prinses van Oranje-Nassau, enz. enz. enz.

Allen, die deze zullen zien of horen lezen, saluut! doen te weten:

(和訳)

私たち、Beatrixは、神の御恵みの下、オランダの女王、オラニエ・ナッソーの王女、...

これを見聞きし読む全ての人に敬礼!以下の通りお知らせする

君主(国王)が存在する立憲君主制の国ならでは、の言い回しか。

 

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著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。

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