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トルコから贈る千夜一夜物語

木村菜穂子|トルコ

緑の宝石ピスタチオの隠れた名産地ガジアンテプ

i-Stock ピスタチオ

上品な味わいのピスタチオ...。固い外殻と内側の薄皮に大切に包まれたあの鮮やかなグリーンの実。「ナッツの女王」などという異名までつけられています。ピスタチオといえばアメリカ産やイラン産がよく知られているかもしれませんが、実はトルコが世界第 3 位のピスタチオ生産国だってご存じでしたか? しかもトルコのピスタチオは、実はクオリティが非常に高いことで有名なんです。そしてトルコの中でも現在私がメインで住んでいるガジアンテプこそが知る人ぞ知るピスタチオの名産地なのです。

これはトルコ人にはよく知られた事実。トルコ人に「ガジアンテプとは?」と質問を投げかけると、速攻で返ってくるのがこの返事でしょう。「ピスタチオ‼」あるいは「食べ物が一番おいしい街‼」。そうなんです、ガジアンテプはトルコの「食の首都」とも呼ばれるほど食が豊かなことで知られています。そしてガジアンテプを代表するスイーツは、名産のピスタチオをふんだんに使ったバクラヴァやカトメル。このバクラヴァを食べに、またガジアンテプの食を堪能しにトルコ各地からトルコ人が押し寄せるのがガジアンテプ。

売られているピスタチオ1.JPG惜しみなく売られているピスタチオ ‐ 筆者撮影

鮮やかな緑のピスタチオ.JPG用途に合わせていろいろな形で売られているピスタチオ ‐ 筆者撮影

外国人にはまだなじみがないガジアンテプですが、トルコ人の国内観光先のトップ 5 には入っているだろうと思われるこのガジアンテプ (筆者の個人的な感想です)。トルコ人にとってはあこがれの街でもあります。

ピスタチオと中東の古くて深い関わり

ピスタチオは現在でこそアメリカで大量に生産されていますが、原産は中近東。ピスタチオに関する一番古い記述は、聖書の創世記 43 章 11 節といわれています。現在のパレスチナ地方に住んでいたヤコブが息子たちにエジプトへの手土産を持たせた記述で、「この地方のよりすぐりの特産品」と呼んでいる品物の 1 つにピスタチオが含まれています。

ピスタチオの種がアメリカのカルフォルニアに持ち込まれたのは 1930 年でイランから(こちらの記事をご参照ください)。ですから、アメリカ産のピスタチオも元をたどれば中東のものなのです。

また、2000 年以上前のローマ時代にガジアンテプでピスタチオが栽培されていたという記録が残っています。ガジアンテプではローマ時代の住居跡から大量の貴重なモザイク画が発掘されていますが、そこで一緒に発掘された少年の像に注目が集まりました。この少年は片手に鈴なりのピスタチオの枝を抱えています。つまりローマ時代にもピスタチオがこの地域で栽培されていたということです。

IMG-9105.jpgガジアンテプで発掘されたローマ時代の遺跡。ピスタチオを左手に持つ少年。 ‐ 筆者撮影

ガジアンテプでは 1920 年ごろから計画的なピスタチオ栽培がおこなわれ始めました。現在では、トルコで生産されるピスタチオの 70% が南部のガジアンテプ周辺のエリアから採られています。でも、なぜ特にガジアンテプ周辺なのでしょうか?

ピスタチオが育つ条件とは?

ピスタチオはどんな環境にも順応しやすく育てやすいといわれることもありますが、実がなっても品質が十分ではないものは、商業的価値がありません。ピスタチオは北緯 30-45 度の範囲で、なおかつ特別な条件のもとでしかきちんと育たないといわれています。ピスタチオは暑くて乾燥した天候に強い木ですが、それでも適切な水量が不可欠です。また、水量に加えて水はけがよい土地である必要があります。この適切な水量がピスタチオの質と収穫量に大きく影響するのだそうです。

IMG-8993.jpgピスタチオが栽培されている地域。ピスタチオの生育は特定の条件に限られることが分かります(ピスタチオ博物館の情報) ‐ 筆者撮影

緯度だけでいうと日本でも育てられるのではないかと思えますが、日本の多湿な気候はピスタチオの生育には適していません。またピスタチオには雄と雌の木があり、雄と雌の両方の木がなければ受粉が成立しません。

通常、ピスタチオの木が成熟し十分な収穫量が得られるまでには 10-12 年必要で、15 年後に最大収穫量に達するという説もありますが、これは土壌や水分の量に大きく依存しています。トルコの農家の間では一般的に、ピスタチオの木が十分に生育して最大収穫量に達するまでに 20 年かかるといわれています。これは農家が個人レベルで導入できる潅水システムに限りがあり、トルコのピスタチオの木に適切な水分量が不足していることにあります。特にトルコ南部はここ数年、温暖化の影響による干ばつの影響を受けています。これにより、収穫量が限られてしまいます。これが質の点では最高級品でありながら、トルコがピスタチオの輸出国になり切れていない理由かと思います。

ピスタチオの輸出国.JPG 2019 年のピスタチオの輸出国 (ガジアンテプにあるピスタチオ研究機関の資料から) ‐ 筆者撮影

トルコではピスタチオの収穫量の 60% が国内で消費され、残りの 40% が輸出されています。とはいえ、ピスタチオの木は収穫量が多い年と少ない年を交互に繰り返しますので、トルコがピスタチオの安定した輸出国となるには生産量の増加と効率化が必要になります。ガジアンテプには政府の「ピスタチオ研究機関」があり、挿し芽による品種改良や適切な水分量の研究などが行われています。収穫量を増やすための農家への教育も行われているようですが、一農家レベルでの技術の導入には限界がありますので、自治体による支援が必要な状況です。

トルコ国内ではピスタチオが大量に消費されている:トルコのスイーツのご紹介

トルコ全体では、ピスタチオの 50% がナッツとして、30% がスイーツに、10% が食品に、そして残りはオイルなど他の用途に使われています。ガジアンテプだけに絞っていうと、ピスタチオの 35% がナッツとして、50% がスイーツに、15% が食品に使われています (ガジアンテプにあるピスタチオ博物館の情報)。このようにガジアンテプではスイーツに使われるピスタチオの量が群を抜いています。

本日はそんなガジアンテプを代表するスイーツ「バクラヴァ」と「カトメル」をご紹介したいと思います。どちらも生のピスタチオをふんだんに使った高級なスイーツです。

バクラヴァとはもうすでにご存じの方もたくさんいらっしゃると思いますが、パイ生地よりも薄い小麦粉の生地 (一般的にフィロ生地と呼ばれます) を何層にも重ねてピスタチオを敷き詰め、さらにその上にこの生地の層を重ねて焼き上げたお菓子。生地を紙のように伸ばす現在の製法は、オスマン帝国時代のトプカプ宮殿が発祥とされています(こちらのサイトをご参照ください)。

バクラヴァ (2).jpgi-Stock バクラヴァ

バクラヴァにはピスタチオのほかにクルミなども使われますが、王道はやはりピスタチオを使ったもの。焼きあがったバクラヴァにはたっぷりと甘いシロップがかけられます。生地を薄―い紙のようにペラペラに仕上げるのはまさに職人の技。Youtube でこの匠の技を紹介している動画がありましたので、貼り付けておきます。

パリパリに焼きあがったバクラヴァは口の中でサクサクと音を立てながら溶け、たっぷりのシロップが絡まったピスタチオと絶妙の組み合わせ。

バクラヴァに使われるのは、フィロ生地と澄ましバター、それにピスタチオと砂糖でできたシロップだけ。バクラヴァを作るお店はトルコにもガジアンテプにも五万とありますが、人気があるバクラヴァ店のバクラヴァは甘いのにとても軽くて、胃にもたれません。甘いのが苦手な私でもパクパクと食べれてしまいます。これは砂糖に秘訣があるのだそうです。ガジアンテプの有名店 Koçak Baklava では、トルコで収穫されるサトウダイコンから採られるてんさい糖を使っているそうです。原材料にこだわったバクラヴァは驚くほどおいしいです。

実は私とバクラヴァとの出会いはヨルダンで。アラブもバクラヴァが大好きです。はじめて口にしたとき、そのあまりの甘さに目が白黒したのを覚えています。その後は胃にもたれてしまい、バクラヴァには苦手意識を持ったまま生活していました。友達の家にお食事に呼ばれると必ずと言っていいほど出てくるこのバクラヴァ。出される度に「あーまたか。苦手なんだけどなぁ」と心でつぶやいていたものです。でもガジアンテプでその苦手意識は消え去りました。自然の素材にこだわったバクラヴァは胃に全くもたれません。

ガジアンテプはバクラヴァの街とはいえ、バクラヴァはやはり高級品。それでも人気店ではキロ単位で飛ぶように売れていきますし、バクラヴァを食べにふらりと立ち寄る人も後を絶ちません。一言でバクラヴァといっても、いろいろな種類があります。ピスタチオの量が増えるほど値段も高くなります。

バクラヴァ.JPG様々な種類のバクラヴァ。緑の部分がピスタチオ。ピスタチオが多ければ多いほどお値段も高くなります。 ‐ 筆者撮影

お次は Katmer (カトメル)。カトメルはガジアンテプが発祥の地といわれています。こちらもフィロ生地を使いますが、薄く伸ばしたフィロ生地に砂糖とクロテッドクリームを広げ、ピスタチオをふんだんにまき散らします。それを 200‐230 度ほどに設定したオーブンで 10 分ほどパリパリに焼きあげたもの。ガジアンテプではこのカトメルがスイーツとしてではなく朝食として食されます。というのも、栄養分に富むピスタチオは朝のエネルギー補給にぴったりだから。

カトメルと牛乳.JPGカトメルは牛乳と一緒にいただきます。これだけでお腹いっぱい! ‐ 筆者撮影

Profile

著者プロフィール
木村菜穂子

中東在住歴13年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半滞在した後、現在はトルコ在住4年目。メインはシリア難民に関わる活動で、中東で習得したアラビア語(Levantine Arabic)を駆使しながらトルコに住むシリア難民と関わる日々。

公式HP:https://picturesque-jordan.com

ブログ:月の砂漠―ヨルダンからA Wanderer in Wonderland-大和撫子の中東放浪記

Eメール:naoko_kimura[at]picturesque-jordan.com

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