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平野美紀|オーストラリア

豪州各地で日本脳炎がアウトブレイク、初の死者...豪雨被災地は要警戒

蚊が媒介する感染症「日本脳炎」がオーストラリア各地でアウトブレイク。(Credit:CHBD-iStock)

現在、オーストラリアでは新型コロナウイルスではない、別のウイルスが拡大している。それは、『日本脳炎』だ。

豪国内においては、本来、地理的に日本脳炎ウイルスがなかったはずの地域でアウトブレイクが発生し、2人の死亡者が出るなど、各州保健当局が警戒を強めている。

日本脳炎ウイルスは、蚊が媒介する感染症だが、2月下旬から3月にかけて、2週間以上続いた豪雨による大規模な洪水被害に見舞われた南東部ではとくに、そこかしこに溜まった雨水や泥が、恰好の蚊の繁殖場所となってしまうことも、大きな懸念だ。

これまで日本脳炎ウイルスのなかったエリアで感染拡大

今回、オーストラリア国内で最初に日本脳炎ウイルスが確認されたのは、ビクトリア州だった。1月に数匹の家畜がウイルスによる感染症で治療を受けた後、日本脳炎ウイルスの可能性があると懸念されていたが、その後、ビクトリア州内のエチューカの豚が日本脳炎ウイルス陽性と判定。そして、さほど時をおかずして、ビクトリア州境付近のニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州の養豚場でも、感染が確認されたのだ。(参照

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ウイルスに感染した動物から蚊を介して、人間が感染する日本脳炎。(Credit:JPTis2016-iStock)

この時点では、人間の感染者は出ていなかったが、3月に入り、ビクトリア州で4人が日本脳炎に感染。クイーンズランド州でも南部を旅していた1人の感染が確認された。保健当局は、この時点で2人がICU入りとなったことを受け、豪南東部での『アウトブレイク』と認定。3月8日には、ビクトリア州で治療を受けていた患者1人の死亡が発表された。そして先日、ニューサウスウェールズ州の死後検査で2人目の死亡が確認されたばかりだ。

また、ビクトリア州では、髄膜炎の疑いで治療を受けていた4ヶ月の乳児が日本脳炎に感染していることが判明。3月9日には、南オーストラリア州でも4人の感染が確認されるなど、感染者は地域をまたいでじわじわと増えてきている。(参照1, 2

3月10日時点で、オーストラリア全土で15人の感染が確認されている日本脳炎だが、このウイルスは、オーストラリアでは、本来、大陸の熱帯地域に当たる北部先端地区のみで確認されていたものだ。しかし、今回は、地理/気候的にもこれまで感染記録の無い南の温帯地域や内陸部の地域で、アウトブレイクに至るほど感染拡大していることになる。(参照)

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WHOによる日本脳炎ウイルスの世界分布図。(WHO, Japanese encephalitis

この異常事態について、本来なかったはずの地域に、どこからウイルスがやってきたのかわからないと、当局も頭を抱えているという。(参照

豪雨被災地での蚊の大繁殖が懸念

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大規模な洪水となった被災地では、水が引いた後の水溜まりや泥などで、蚊の大量発生が懸念される。(Credit:3DFOX-iStock)

感染者が出た州では、できるだけ肌の露出を避け、虫除け対策をしっかり行うよう、呼びかけられているが、なかでも、災害復旧作業が進められている豪雨被災地で、水が引いた後に、蚊が大繁殖する可能性が大きいと、当局や専門家は警鐘を鳴らす。

日本脳炎は、ヒトからヒトへと感染するのではなく、感染した動物(主に豚などの家畜)から蚊(主にアカイエカ)を介して感染するウイルス感染症だ。その名前の由来にもなっているように、私たち日本人にとっては馴染みのある感染症でもあり、多くの日本人が子供の頃にワクチンを接種した記憶があると思う。しかし、時間の経過とともにワクチンの効果が薄れていたり、日本国内での接種が一時中断されていた時期があり、接種していない年代の人もいるようなので、注意が必要だろう。

また、感染した場合の初期症状が、発熱や頭痛、嘔吐などとなっており、今もまだ収まる気配のない新型コロナウイルスの症状に似ているというから、厄介極まりない。脳炎などの重篤な症状を起こす確率は1%未満と言われるが、治療法が確立しておらず、稀ではあるものの、死に至ることがあるため油断は禁物だ。

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長袖、長ズボンを着用したり、虫除けスプレーを利用して、蚊に刺されないようにすることも重要。(Credit:galitskaya-iStock)

豪保健省は、ワクチンを接種することが日本脳炎ウイルス感染を予防する有効な手段であるとして、備蓄分に加え、130,000回分のワクチンを追加購入。国民への意識向上キャンペーンを展開する予定だ。(参照

新型コロナウイルスのパンデミックに豪雨による自然災害、そして日本脳炎・・・次々と襲い掛かる難題に、頭を抱える日々。いつになったら安心して暮らせる日が来るのだろうか...(涙)〈了〉

【参考に・・】
日本脳炎 - 厚生労働省

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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