World Voice

Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア

平野美紀|オーストラリア

シドニーのロックダウン、2ヶ月経っても効果が見えないのはなぜか?

ロックダウンが9月末まで延長となっているシドニー。(Credit:Mlenny-iStock)

6月半ばにデルタ株感染が確認され、クラスターとなって、日々、感染者が増え続けたことから、6月26日から大都市圏全域でのロックダウンとなったシドニー。

あれから約2ヶ月が経ち、現在、ロックダウンは9月末まで延長が決まっている。ロックダウンとなっているにもかかわらず、感染者は増え続け、8月26日には初めて1日の感染者数が1,000人を超えた。

他州と比較しても、1日の感染者が1,000人を超えるのは豪国内で初めてだ。

こうした状況から豪国外からは、「やはり、ロックダウンは効果がない」といった声が聞こえてくるが、本当にそうなのだろうか?

他州は素早いロックダウンでゼロコロナを維持、シドニーのは「モックダウン」?

オーストラリアでこれほどまでに感染拡大したのは、シドニーのあるニューサウスウェールズ州だけだ。

他州では、1~数人程度の感染者が確認されただけで、ほぼその日のうちに「スナップ・ロックダウン」と呼ばれる3~7日間程度の短期ロックダウンで感染拡大を抑え、今でもほとんどの州が新規市中感染ケース「0」を維持している。(注)

Australia-s-coronavirus-cases-last-28-days-COVID-19-latest-data.png

ロックダウン中の州を除く、8/2 ~ 8/29 までの豪各州の新規市中感染ケース。クイーンズランド州で7月末~8月初旬に1桁~十数件程度の感染が確認されたが、スナップ・ロックダウンしたことで、現在はまた抑えている。(covid19data.com.au

片や、シドニーでは、2ヶ月に及ぶロックダウンで人流を制限しているはずなのに、感染拡大が収まらない。その理由として、豪国内の他州や専門家らからは、ニューサウスウェールズ州のロックダウンの決定及び導入の遅さや対象地域の曖昧さ、規制内容が緩いことなどが指摘されている。

ニューサウスウェールズ州政府は、6月25日にシドニー東部4地区にソフト・ロックダンともいえる「ステイ at ホーム」をオーダーしたが、豪国内の専門家らは、シドニー近郊で広域ロックダウンを直ちに行わない州政府の対応を批判。(参照

これを受けて、州政府は対象地区を徐々に拡大していったのだが、その後もその規制内容について、「シドニーのロックダウンは十分に厳しくなく、メルボルンでは機能しなかった方法でやっている」と、ロックダウンのやり方が間違っていると指摘する厳しい批判が相次いだ。(参照

このような状況から、豪国内では「シドニーのロックダウンは、モックダウンだ」という声が上がり、SNSでは #mockdown というハッシュタグまで登場。Mockの疑似/似非/まがいの」という意味から、「これは、ロックダウンまがいの似非ロックダウンであって、ロックダウンじゃない」と揶揄されている。

7月16日には、オーストラリア医師会 The Australian Medical Association (AMA)が、たまりかねたように以下のような声明を出した。

AMA calls for stricter lockdown of Greater Sydney region(オーストラリア医師会は、シドニー大都市圏のより厳格なロックダウンを求める)

また、8月25日には、豪ABCのファクトチェック・チームが、ニューサウスウェールズ州首相が口にした「シドニーのロックダウンは、他州がこれまでに行ったどのロックダウンよりも厳しい」という発言に対し、他州で行われたロックダウンと比較して「間違っている」とする、痛烈な批判記事を出したほどだ。(参照


ロックダウンは戒厳令とは異なるうえ、外出禁止ではない

ウイルスは生きた細胞の中でしか増殖できないため、生き残るためには、次々と他の個体に侵入して感染させ続けることが必須となる。そこで、ウイルスの宿主となった人(感染者)が、新たな宿主となる人へウイルスを渡さないよう、人流を止めて、感染伝播の連鎖を断ち切るのがロックダウンだ。(完全に人流を止めることは現実的ではないため、最小限に留める形になるけれど...)

オーストラリアのほとんどの州では、こうしたロックダウンを迅速に一気に徹底して行うことで、新規市中感染をほぼ0に抑えることができている。

日本では、ロックダウンと戒厳令を混同しているような意見を散見するが、この2つはまったく別のものだ。これは、ロックダウンを日本語で「都市封鎖」や「外出禁止令」としているところにも問題があるように思う。正確には「外出制限令」のほうが実態に近い。また、戒厳令とは、戦争や内乱などの非常時に、通常の立法権、行政権、司法権の行使を軍部にゆだねる非常法のことだ。(参照

つまり、ロックダウンとは「外出制限」なのであるから、オーストラリアではどの州のロックダウンであっても、一定条件で外出は可能だ。

iStock-1331569211.jpg

ロックダウン中の2021年7月31日のシドニー東部ビーチ地区「ボンダイ」の様子。市民は、屋外で他人との距離を保ちつつ、散歩や運動のために外出できる。(Credit:Kirsten Walla-iStock)

その条件とは、主に以下の4つ。

1.食料品や日常品、薬等の生活必需品の買い物、テイクアウト・フードの購入
2.毎日のエクササイズ(運動)※散歩、ランニング、サイクリング、サーフィン等
3.在宅勤務できない仕事で必須である場合、在宅学習できない場合
4.病院への通院、医療や介護のため、ワクチン接種のため

この条件に、移動距離や時間の制限などが加わる場合があるが、ロックダウンによってまったく外出できない州はひとつもないし、制限を課すことによって生じる損失(収入減や収益減等)については、国や州政府が補償金を出すのが通例となっている。

ロックダウンは値段の決まった商品ではないため、やり方は何通りもあるし、迅速かつ効率的にやることが成功の鍵となる。ただ、短期間のスナップ・ロックダウンが有効なのは、新規感染ケースが0であったところへ、わずか1~数件程度の新規感染が見つかった時点で直ちに行う場合のみで、ある程度市中にウイルスが漏れてしまった場合は、昨年のメルボルンの事例のように効いてくるまでにそれなりの時間がかかるのも事実だ。

では、『緩くて効果がない』と批判されるニューサウスウェールズ州のロックダウンは、具体的にどのように『緩い』のか? 次回では、ニューサウスウェールズ州政府が行ったロックダウン関連の主な対策を時系列で追って検証してみたい。

>>8/31 公開しました!続編:シドニーのロックダウンは『モックダウン』? ロックダウン 2ヶ月間を振り返る

(注)8月29日現在、オーストラリアでロックダウンとなっているのは、シドニーのあるニューサウスウェールズ州と、ニューサウスウェールズ州にぐるりと周囲を囲まれている首都キャンベラ、そして、メルボルンのあるビクトリア州のみ。ビクトリア州は、昨年の厳格ロックダウンで新規感染ケースを0にし、その後もポツリポツリと市中感染ケースがでる度に厳格なスナップ・ロックダウンで感染制御してきていたが、今回、シドニーから移動してきた感染者から拡散してしまったデルタ株感染の制御のため、現在、ロックダウンとなっている。

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

Archives

このブロガーの記事

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ