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サッカーを食べ、サッカーを飲み、サッカーと寝る国より

古庄亨|ブラジル

世界(ブラジル)は東京オリンピックをどう見ているのか/後編

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◉世界(ブラジル)は東京五輪をどう見ているのか

この原稿を書いてる時点で、オリンピック男子サッカー準々決勝が終了した。

日本もブラジルもそれぞれ勝ち、一つずつ駒を上に進めた。

このままお互いが勝ち上がり、決勝での対決を見る事ができれば言う事は無い。

前編で述べた通り、競技結果が最大で唯一の評価となる選手。

これらの情報は、TV、ネット、SNSでどこでも目にする事ができる。

今は、サーフィンで優勝したイタロ・フェレイラ選手や、一躍国民的アイドルとなったスケボーの13歳のライッサ・レアウ選手、柔道選手団の話題が多い。

人気のある団体競技が残っているので、まだまだ情報は入ってくるであろう。

一方で主催者や、運営側に関するニュースを目にする事がほぼない。

オリンピックに関する非難は皆無と言っても良いだろう。

競技以外でオリンピックの情報が出たのは、開会式と東京でのCovid-19の感染者増加の件だけである。

個人のSNSでは、Olimpiada do Covid(コロナ五輪)などと書き込んでいる方もいるが、TVやネットで大手局がその様な記載をする事ない。

コロナ五輪という呼称も、選手へのリスペクトやCovid-19でお亡くなりになった方や、苦しんでいる方への配慮が欠けるので、個人的には好きではない。

ブラジルが東京五輪に対して肯定的なのは、先日のコパ・アメリカ開催の影響も大きいだろう。

元々はアルゼンチンで開催される予定だったものが、アルゼンチン国内でのCovido-19への感染者増加が止まらず、開催を返上。ブラジルのボルソナロ大統領の英断でブラジルで代理開催となった。開催において賛否両論はかなりあり、招集選手の参加拒否などの紆余曲折はあったが、大会自体は無事に開催された。

ブラジル、アルゼンチンという南米の両雄が決勝でぶつかり、メッシ率いるアルゼンチンが優勝を飾った。

大会を通してブラジルがテンポの良い面白いサッカーをしていた事、メッシの代表での初タイトルといった話題もあり、開催後には非難の声も無くなっていた。

開催方法は、今回の東京五輪と同じで無観客試合である。(※決勝のみ7,000人の有観客)

この大会期間中の1ヶ月間で、延べ28,000人の選手、関係者、サポートスタッフが検査を受け、約180名の陽性者が出たという発表がありました。

ブラジル国内には無かった変異株を持った選手もいたとの事で、すぐに隔離され陰性に戻った後に帰国させたそうです。

これらの結果を受けて、試合に出場できなくなった選手もおり、この数字が多いと感じるか、少ないと感じるかは人それぞれだが、死亡者、重症者は出ていない。

また、大会期間中から大会後にかけての、ブラジル全体でのな感染拡大はなく、むしろブラジル全土でも死亡者、重症者が減ってきている傾向にあった。

CNNブラジルサイトより

・28,000回に渡る検査から180名の陽性者

・選手36名、関係者137名、医療機関6名

雑誌Oesteサイトより

・期間中に陽性者数、死亡者数共に減少

・他国関係者からブラジル国外の変異株を確認

少し話が逸れるが、先日筆者の住んでいるサンパウロでは大幅な規制緩和が発表された。

飲食店は24時まで営業可能にあり、80%の収容を認める事になった。

夜間の外出禁止令も撤廃され、学校も100%再開が可能となる。

マスク着用の有無も議論が出る様になってきている。

ワクチン接種スケジュールの前倒しも手伝い、元の生活にの戻すピッチをあげるのだという州知事の強いメッセージなのであろう。(選挙の為、支持者の為という意見もない訳ではない)

そういった事もあり、ブラジルより遥かに死亡者や重症者が少ない日本、ブラジルより規律があり様々な事が進んでいると考えられている日本で、Covid-19の感染拡大が進むと本気で心配するブラジル人はそう多くないのである。

(サンパウロ州政府の発表)

1 経済への制限措置の緩和
(1) SP州経済活動再開計画(Plano)に基づく措置について、8月1日(日)から、営業可能時間及び店舗への客の収容率は拡大されます。具体的には、営業可能時間は24時まで(現在は23時まで)、店舗への客の収容率は本来の80%まで(現在は60%まで)となります。ただし、マスクの使用、最低1メートルの社会的距離や消毒などの感染症対策の義務は維持されます。また、これまで行われてきた夜間の外出自粛要請は終了します。
(2) なお、密が生じるナイトクラブ、ショー、有観客のスポーツイベントは引き続き禁止されます。
(3) 上記の経済への制限措置緩和の理由として、ドリア州知事は新規感染者数、入院者数及び死者数等の関連指数の顕著な改善が見られている点を挙げています。
(4) 今後の措置については、現在の措置(移行フェーズ)は8月16日まで継続されます。8月17日以降は「安全な回復段階(etapa de retomada segura)」となり、マスク着用などの感染症対策を執る義務は継続するものの営業時間の制限などは撤廃される見込みです(州内の各自治体で実情に合った措置を執ることは可能。)。

2 ワクチン接種スケジュールの前倒し
 サンパウロ州政府はワクチン接種スケジュールの前倒しを行い、8月16日以降には18歳以上の全年齢層へのワクチン接種が可能となります(これまでは18歳からの年齢層は8月20日までに接種可能となると発表されていました。)。

ブラジルは今回の東京五輪をどう見ているか...

選手としては、どう見られようが金メダルは金メダルであり、銀メダルは銀メダルである。

そこの序列が変わる事はない。

選手には余り関係がない。

どう見られているかを気にしているのは、主催や運営、関係者であろう。

彼らが世界に見せたかったモノ、世界に感じて欲しかったモノは前編でも述べた。

しかし、そこは残念ながら伝わっていないし、感じて貰えていないのではないだろうか。

何故なら、オリンピックに関して上がってくる情報が競技の事とCovid-19の事のみだからである。

・スポーツ、健康

・文化、教育

・復興、オールジャパン、世界への発信

・街づくり、持続可能性

・経済、テクノロジー

・日本文化、ブランドを世界にアピール(建設業界)

・ジャパニーズフードを世界にアピール(食品業界)

どれくらい達成されているのであろうか。

インフラ整備や街づくり等は、日本にいないと感じる事はできないので筆者には分からない。

スポーツ、健康、文化、教育に関しても同じである。

その他の日本から海外へ発信する必要がある部分については疑問符がつく。

コロナ禍だから、無観客になってしまったから、外国人は入国拒否だから...

確かに、そこが大きな影響を及ぼしているのは間違いない。

訪問客、観戦者が来なかった事で、実現不可能になったアクティビティ、レガシーはある。

ただそれは、日本に来れなかった外国人に対しての話であって、海外に住んでいる外国人には関係がないモノもある。

試合観戦を現地で生観戦をする事ができなくなったが、日本のIT技術やおもてなしを周知したり、体験する事は可能だとも考える事ができる。

(享受する側)

・日本国内で日本人が感じる物や事

・日本国内で外国人が感じる物や事

・海外で外国人が感じる日本の物や事

(提供する側)

・日本国内に住んでいる日本人が提供できる物や事

・日本国内に住んでいる外国人が提供できる物や事

・海外に住んでいる日本人や外国人が提供できる物や事

前述の5本の柱から生まれたアクティビティとレガシーの中で、手法を変えて実現できるモノや事は無かっただろうか。

先日、日本のNHK海外版で新国立競技場の新築に関連する番組を、サンパウロで観る機会があった。

僅かなズレも許さない施工技術、日本全国の木材を使い、鋼と木を融合させたり風の計算をして自然なエアコンとするなど、たまたま番組を見なければ知る事がなかった、または本来であれば新国立競技場に訪れる筈だった観客の方々が知る事になっていた貴重な情報である。

これらを周知できる機会を奪われた、今回の無観客、外国人一時入国禁止措置は大きな痛手である。

では打つ手は全くないのだろうか。

例えば、上記の『海外で外国人が感じる日本の物や事』と『海外に住んでいる日本人や外国人が提供できる物や事』を掛け合わせてみる。

海外には日本人駐在員や在住者が沢山住んでいる。

彼らは何年も現地で会社を営んでおり、現地スタッフも雇用しており関わり合いも深い。

彼らを通して、日本の技術や文化、オリンピックに関するアクティビティやレガシーを開催する事も可能ではないだろうか。

在ブラジル日系企業300社で、1社100人だと考えても、3万人。

仮に4人家族だと考えたら、それだけで12万人の対象者がいる。

かなり大雑把な計算であり、オリンピックの表記権や使用権の問題等クリアしなければいけない課題はある。

ただ何もできなかったで終わるよりも、何かした動いている発信している事で各地域への見え方も違ったモノになったのではないだろうか。

その部分が、日本から遠く離れていて今回見えてこない、感じる事ができていない部分でもある。

筆者は日本が嫌で飛び出した訳ではなく、仕事の関係でブラジルに来ただけである。

日本批判など無いし、海外通ぶる気は微塵もない。

オーガナイズの部分を充実させ、ユーロ決勝でのイギリスでの様に有観客での試合をどちらかというと望んでいた。

オリンピックだけでなく、その後に残るレガシーも同時に成功させて欲しいと願っている。

ただ関係者が見せたかった、感じて欲しかったオリンピックの姿は現時点では、ここブラジルには残念ながら届いていない。

 

Profile

著者プロフィール
古庄亨

ブラジル・サンパウロ在住。日本・ブラジル・タイの3ヶ国で、2010年までフットサル選手としてプレー。2011年より5年間、都内スポーツマネージメント会社勤務。2016年ブラジルに渡り翌年現地にて起業。サッカーを中心にスポーツ・教育関連事業で活動中。

Webサイト: アレグリアスポーツアカデミー・サンパウロ

Twitter: @toru_furusho

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