コラム

トランプの宇宙政策大統領令と国際宇宙探査フォーラム

2018年03月06日(火)15時30分

ISEF2の最終的な声明はまだ明らかにされていないが、報道では、「宇宙探査を「人間の活動領域を拡大する重要な挑戦」と位置付けた上で、国家的な投資の必要性や産業界も含めた国際協力の重要性などを再確認。目標として月、火星探査や、その先の太陽系探査を掲げた」(時事通信)「宇宙探査では国際協力が相乗効果をもたらすことや、同会合の成果が国連の活動に反映されるべきことなど、6つの認識を採択した。そのうえで、宇宙条約の順守や天体など宇宙環境の保護に努めることなどを10の原則にまとめ、参加国が賛同した」(日経新聞)といったことが声明に含まれたとのこと。

ここからわかることは、既にトランプ政権が予算を2025年で打ち切りにすると決めたISSの延長どころかISSの言及はなく、探査そのもののプランというよりは、宇宙条約の遵守や宇宙環境の保護といった規制的な側面が含まれたという点は興味深い。

ISEF2の盛り上がりの欠如、ワクワク感や熱気のなさ、中途半端な目標設定などを見ると、これが政府主導の宇宙探査の終わりすら示唆しているように思える。既に繰り返し述べてきたように、政府が有人宇宙探査を進める論理が脆弱になる一方で、SpaceXによる火星移住計画などに多くの注目が集まっている。

SLSの遅れや発射タワーのミスのように、税金を使って宇宙機関が有人宇宙事業を進めることの有効性すら疑われる状態になっている。世界の宇宙政策の潮目は大きく変わっており、これまでのような政府主導のプロジェクトはもう魅力も乏しく、しがらみも多く、人々に訴求する力を失っている。

こんな中で、トランプ政権の「月に戻る」という曖昧な戦略に乗っかり、自らの有人宇宙事業をなんとか継続しようとすることは、税金の無駄遣いになる可能性が高い。

日本ではまだ政府(文科省やJAXA)主導の有人宇宙事業の訴求力は強いが、それでも限られた予算の中でできることは極めて限定されており、議会も行政府も熱意が見られないアメリカの戦略に乗っかるしかないという状況では、何も得られないまま税金だけを垂れ流すという結果になる恐れもある。そうならないように、日本の有人宇宙事業をどうしていくべきか、それを全面的に止めることも含めて検討すべき時に来ている。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設

ビジネス

独、24年成長率予想を若干上方修正 インフレ見通し

ビジネス

ドル34年ぶり155円台、介入警戒感極まる 日銀の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story