最新記事

ウクライナ情勢

「米欧が一線を超えた」と懸念する声も ロシア弱体化を狙う危険な賭け

A DANGEROUS ESCALATION

2022年5月13日(金)17時05分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)
ジョー・バイデン米大統領

「ロシアを弱体化させることと、それを公言することは全く違う」と語る欧州外交官も JONATHAN ERNST-REUTERS

<当初の慎重な支援を覆してロシアの軍事的衰退を公然と目指すアメリカ。その戦略は世界を「道連れ」にする恐れがある>

ロシアのウクライナ侵攻を受けた、アメリカとNATOのウクライナ支援策が大きな転機を迎えている。

当初はロシアに対する経済制裁や、ウクライナ国内の防衛に必要な控えめな武器供与にとどまっていた支援が、ロシアの軍事力を直接弱体化させる支援へとシフトしつつあるのだ。

それはロシアのウラジーミル・プーチン大統領に降伏か、軍事攻勢のさらなる拡大かという選択を迫る恐れがあると、一部の専門家は危惧する。そしてプーチンが降伏するという選択肢が考えにくい以上、戦争はウクライナを超えた地域にまで広がる恐れがあると指摘する。

ジョー・バイデン米大統領は4月28日、ウクライナを軍事的、経済的、そして人道面で支援するため、これまで表明してきた支援の2倍以上となる330億ドルの追加予算を議会に求めた。

バイデンはこのときの会見で、「ウクライナの人々とわれわれの結束は、『ウクライナを支配することは決してできない』という疑う余地のないメッセージを、プーチンに突き付けるだろう」と語った。

さらにバイデンは、「ロシアの侵攻に罰を科し、将来の紛争リスクを低減するため」ならば、ウクライナ防衛に巨額の投資をすることは、わずかな代償にすぎないとも語った。

これに先立つ4月25日、ロイド・オースティン米国防長官も、アメリカの狙いはロシアの軍事力を衰えさせることだと明言した。

ウクライナの首都キーウ(キエフ)でウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会った後、ポーランドに立ち寄ったオースティンは、「ウクライナ侵攻のようなことが再びできないようにロシアを弱体化させたい」と語った。

おそらくこれを受けて、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、欧米諸国とロシアは「代理」戦争に突入したと発言。それが新たな世界大戦に発展して、核が使われる危険があると示唆した。

「(核戦争の)危険は現実的に存在する。過小評価してはならない」とラブロフは警告した。

プーチン自身もウクライナ侵攻当初から、ロシアを邪魔する直接的な脅威に対しては「あらゆる手段」を講じる準備があり、「必要に迫られればそれを使う」として、核を使用する可能性をほのめかしてきた。

今回、アメリカが攻撃的な姿勢を打ち出すようになったことは、多方面から称賛されている。特に、核を使用するなどロシアの空威張りにすぎないと主張してきたNATO高官らは歓迎している。

「かくあるべきだ」と、アナス・フォー・ラスムセン元NATO事務総長は語った。「こちらが何をしようと、プーチンは、西側の狙いはロシアを弱体化させることだと言うだけだ。それなら公然と言えばいい」

同時にラスムセンは、「これまでのわれわれは、プーチンの野心や残忍性を過小評価する一方で、ロシアの軍事力を過大評価していた」と語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

IAEA、イラン核施設に被害ないと確認 引き続き状

ワールド

オランダ半導体や航空・海運業界、中国情報活動の標的

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ワールド

ガザで子どもの遺体抱く女性、世界報道写真大賞 ロイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中