最新記事

人体

「朝、3分間、長波長の赤い光を目に当てると、加齢で低下した視力が改善する」との研究結果

2021年11月29日(月)17時10分
松岡由希子

「低下した視力の改善には、朝の時間帯に光を当てることが重要」 ULC

<英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームが、赤い光を2週間にわたって毎朝3分間見つめる実験を行ったところ、コントラスト感度が被験者全体で14%改善した>

ヒトの網膜の細胞は、40歳くらいから老化しはじめる。その一因として、様々な生命活動で必要なエネルギーの貯蔵・利用にかかわるアデノシン三リン酸(ATP)を合成するミトコンドリアが加齢に伴って減少する点があげられる。網膜の視細胞は多くのエネルギーを必要とし、ミトコンドリアが密集している。そのため、他の器官よりも速く老化し、光受容体機能の低下をもたらす。

赤い光を2週間にわたって毎朝3分間見つめると、14%が改善

英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームは、波長650~900ナノメートルの長波長の光によってミトコンドリアのエネルギー産生力が向上する点に着目し、長波長の赤い光を用いた網膜の視細胞の機能改善について研究している。

マウス、マルバナバチ、ミバエの実験では、波長670ナノメートルの赤い光を目に当てると、網膜の視細胞の機能が著しく改善した。また、28~72歳の24人を対象とする実験では、懐中電灯が発する波長670ナノメートルの赤い光を2週間にわたって毎朝3分間見つめさせた結果、コントラスト感度が被験者全体で14%改善し、38歳以上では22%改善した。

「低下した視力の改善には、朝の時間帯に光を当てることが重要」

研究チームはさらに、光を当てる時間帯によって改善効果が異なるのかについても調べ、2021年11月24日、その研究成果を「サイエンティフィック・リポーツ」で発表した。

34~70歳の20人を対象に、朝8~9時の3分間、波長670ナノメートルの赤い光を見つめてもらい、その3時間後にコントラスト感度を検査した。その結果、コントラスト感度が平均17%改善。年齢別でみると、38~49歳では14%、50~59歳では20%、60歳以上では19%改善した。また、そのうち10人を対象に1週間後、再びコントラスト感度を検査したところ、その効果は持続していた。一方、昼12~13時に3分間、波長670ナノメートルの赤い光を見つめた6人では、コントラスト感度に変化がみられなかった。

研究論文の責任著者でユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのグレン・ジェフリー教授は、「低下した視力の改善には、朝の時間帯に光を当てることが重要」とし、「これまでのハエの研究で、ミトコンドリアの活動パターンは変化しており、午後の光に対して同じように反応しないことがわかっている。今回の研究結果でもこの点が裏付けられた」と述べている。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中