最新記事

オーストラリア

閲覧ご注意:ネズミの波がオーストラリアの農地や町に殺到している

2021年5月28日(金)18時25分
松岡由希子

ネズミの波がオーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州の農地や町に殺到している twitter-@LucyThack

<オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州でネズミが大量に発生し、公衆衛生上の問題となっている>

オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州では、農村地帯を中心にネズミが大量に発生。ネズミの波が農地や町に殺到し、農作物を食い荒らすなどして農家に甚大な経済的損失をもたらし、住宅や病院に侵入して人を噛んだり、死骸が悪臭を放つといった公衆衛生上の問題も生じている。

2021年5月18日には、ニューサウスウェールズ州ダボの貯蔵庫で無数のネズミが仕掛けに群がる様子を捉えた動画がツイッターで投稿され、注目を集めた。

オーストラリア南東部ニューサウスウェールズ州では、3月下旬に大規模な洪水が発生、1万8000人の住民が避難を余儀なくされている。その後、クモが大量発生し、住宅に押し寄せ問題となっている。

●参考記事
クモ大量発生、民家の壁を覆うようにびっしり。「本当に心底ぞっとさせられた」

ネズミが大量発生している原因について、豪チャールズスタート大学のマギー・ワトソン博士はこうした気候的な要因を挙げ、また急速な都市化と農地の拡大で、自然にネズミを餌にする猛禽類の減少も理由の一つとしている。

殺鼠剤への依存は、他の動物に影響を及ぼす懸念

ニューサウスウェールズ州政府は、5月13日、農家や小規模事業者らがネズミの駆除に充てる資金として5000万豪ドル(約42億5000万円)の助成金を創設するとともに、現在、使用が禁止されている抗凝固剤系殺鼠剤「ブロマジオロン」の緊急承認を連邦政府に求めている。

しかしながら、毒性の強いブロマジオロンに過度に依存した対策は、ネズミを捕食する動物を含め、自然界の食物網に影響を及ぼすおそれがあると懸念されている。

豪エディスコーワン大学の研究チームが2018年4月に発表した研究論文によると、鳥31種、哺乳類5種、爬虫類1種で抗凝固剤系殺鼠剤の関与がみられた。

また、豪カーティン大学らの研究チームは、毒ヘビの一種であるジュガイドやタイガースネーク、マツカサトカゲを対象とする研究で「いずれもブロマジオロンに曝露していた」との結果を示している。北海道大学の研究チームが2018年12月に発表した研究成果では、フクロウやアカトビ、ハイタカ、ゴールデンイーグルなどの猛禽類の肝臓でブロマジオロンがみられた。

代替策が検討されている

カーティン大学らの研究チームは、代替策として、「クマテトラリル」や「ワルファリン」など、ブロマジオロンよりも毒性が弱い第一世代抗凝固剤系殺鼠剤や、毒ネズミを食べた他の動物には害を与えづらいリン酸亜鉛をブロマジオロンの代わりに用いるよう提唱している

また、ネズミの餌となる作物を制限することも有効だ。農場で穀物を残さないようにするほか、ネズミが侵入しづらい貯蔵庫の研究開発への投資も検討の余地があるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

官僚時代は「米と対立ばかり」、訪米は隔世の感=斎藤

ビジネス

全国コアCPI、3月は+2.6% 年度内の2%割れ

ワールド

ロシアが政府職員の出国制限強化、機密漏洩を警戒=関

ビジネス

G20、米利下げ観測後退で債務巡る議論に緊急性=ブ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中