最新記事

ワクチン

ワクチン・パスポート、英国では導入に前向き、米国では分断促す懸念も

2021年4月9日(金)18時30分
松丸さとみ

ワクチン接種を証明する「ワクチン・パスポート」導入に議論が進む...... (写真はイメージ) Fokusiert-iStock

<ワクチン接種を証明する、いわゆる「ワクチン・パスポート」について英国政府は前向きに検討中だが、米国政府は導入しないとの意向をこのほど明言し、対応が分かれている......>

ワクチン接種証明が経済再開の鍵に

すでに多くの人が新型コロナウイルスのワクチンを接種している英国や米国で、経済再開に向けた鍵になるとされているのが、ワクチン接種を証明する、いわゆる「ワクチン・パスポート」だ。英国政府は前向きに検討中だが、米国政府は導入しないとの意向をこのほど明言し、対応が分かれている。

欧米諸国の中で最初にワクチンの接種を開始した英国では、1回目のワクチン接種を受けた人の数は約3170万人、2回目まで終了した人は570万人弱となっている(英政府発表の4月9日時点の数字)。英国の人口は約6815万人のため、半数近くが少なくとも1回はワクチンを接種したことになる。

一方で米疾病予防管理センター(CDC)が発表した数字によると、米国ではこれまでに1億7150万回弱のワクチン接種を実施。「ワクチン接種完了」(2回または1回のワクチンを必要な回数接種)とされる人は、国民の19.4%に当たる6442万人弱に上る。65歳以上では58.4%だ。

ワクチン接種が進むに伴い、英米で最近議論されているのが、「ワクチン・パスポートを発行するか否か」だ。ワクチン・パスポートとは、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を済ませたことを証明する書類で、ワクチン接種の有無、陰性のテスト結果の他、過去に罹患して回復した場合はその旨が記載されることになるとみられている。

これにより、国内での移動が可能になったり、大人数が集まるイベントに参加できるようになったりと、コロナ以前に近い生活に戻せるようになるのではないかとみられている。同時に、打撃を受けている業界の経済刺激にもなると期待されている。また、海外旅行ができるようになった際、入国時にワクチン・パスポートの提示を求める国が出てくることも考えられる。

英国ではサッカー大会などでまず試験的に導入

発議したによると、世界でもっともワクチン接種率の高いイスラエルでは、「グリーン・パス」と呼ばれるワクチン・パスポートがすでに活用されている。ワクチン接種が完了した人と、新型コロナに罹患して回復した人に提供される、スマートフォン・アプリ型の証明書だ。これを提示すれば、ホテルやジム、劇場などに入れるようになるという。

欧州では、欧州委員会が3月21日、ワクチン・パスポートとなる「デジタル・グリーン証明書」を発行することを発議した。欧州連合(EU)の市民がEU域内を安全に移動できることを目指すものだが、現在EUの多くの国では移動が制限されており、実際に使用できるのは移動制限解除後になる。また、欧州議会やEU加盟国の承認を得た後にデジタル・インフラの構築開始となるため、導入は少なくとも夏以降になる見込みだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中