最新記事

人権問題

中国のウイグル「虐殺」阻止、バイデンへの期待が高まる理由

2021年1月19日(火)17時20分
デービッド・ブレナン

中国の王毅外相のベルリン訪問時、ウイグル人たちが抗議デモを行った(2020年9月) Michele Tantussi-REUTERS

<トランプ政権は弾圧を声高に非難したが、政治利用もしていた。中国との対話の可能性も探る米新政権は「文化的ジェノサイド」をどう止めるのか。その本気度を見極めるバロメーターがいくつかある>

(本誌「バイデンvs中国」特集より)

ジョー・バイデン新米大統領は、民主主義と人権を世界に広げることに力を尽くし、中国にもタフな姿勢で臨むと誓っている。中国共産党には悪いニュースだが、中国当局に弾圧されてきた少数民族と民主派活動家にとっては良いニュースだ。

バイデンがかつてのアメリカの読みの甘い対中政策、すなわち経済関係の強化を通じて、中国を「良い子」にする政策に回帰すれば、習近平(シー・チンピン)国家主席率いる中国の現指導部はさらに図に乗り強権的になるだろう。

だが選挙戦中、バイデンはそうした懸念を払拭しようとしてきた。実際にどうするかは、これから分かる。
20210126issue_cover200.jpg
2013年に権力を握って以来、習は国内の反政府的な動きを完全に抑え込み、基盤を固めてきた。習が進めてきた残酷かつ全体主義的な政策の最たるものは、中国西端の新疆ウイグル自治区に暮らすイスラム教徒の少数民族ウイグル人に対する弾圧だろう。

ウイグル人をはじめ、中国の少数民族はバイデンの率いる次期米政権に大きな期待を寄せている。バイデンの対中政策にはさまざまな課題が含まれるが、「自治区で起きていることを忘れないでほしい」と、活動家たちは訴えている。

「多くのウイグル人が彼を非常に信頼し希望を抱いている」と、ウイグル人活動家のジョウハー・イリハムは言う。彼女の父親は、中国当局に逮捕され、今も獄中にいる経済学者イリハム・トフティだ。

一方、アメリカに本拠を置く支援組織「ウイグル人権プロジェクト」(UHRP)のピーター・アーウィンは、ウイグル人の間には「多少の警戒感がある」と話す。中国に敵意をむき出しにしたトランプ政権と違って、バイデン政権の政策は「未知数」であるためだ。

もっとも、UHRPは楽観視しているとも、アーウィンは付け加える。ウイグル人の訴えは既に米政界で超党派の幅広い支持を得ているからだ。加えて、一国主義的なアメリカ・ファーストを掲げていたトランプと違って、バイデンなら同盟国と広範な共同戦線を張って、中国を牽制できるとの期待感もある。

中国当局は「再教育施設」と称して新疆ウイグル自治区に収容施設を次々に建設。100万人を超えるウイグル人を収監してきた。

迫害の犠牲者は被収容者だけではない。ウイグル人にとっては自治区全域が檻のない牢獄のようなもの。当局は監視カメラなどで住民の行動に目を光らせ、少しでも反政府的な兆候があれば容赦なくつぶす。令状なしの家宅捜索や恣意的な逮捕も日常茶飯事だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中