最新記事

韓国

「#ジョンインちゃん、ごめんね」 養父母による虐待死に国民が涙、BTSとARMYも追悼

2021年1月15日(金)19時34分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

「虐待致死」か「殺人」か

今回の裁判に至るまでにも、この事件に関しては世間をざわつかせる騒動があった。ソウル南部地検は、里親2人の拘束当時、「児童虐待致死容疑」を適用したものの公訴状に「殺人罪」を記載せず世論から批判が上がっていた。

批判の声が大きくなると検察は専門解剖を依頼、ジョンインちゃんの死亡原因結果を受けて「殺人罪」を適用した。

これに対して里親側の弁護士は「児童虐待致死疑い」を主張した。ちなみに、韓国の法律では、児童虐待での死亡量刑は4〜7年だが、殺人となれば、基本10〜16年と大きな違いがある。

このジョンインちゃん虐待致死事件が報道されるやいなや、人びとは声を上げ始めた。韓国大統領府のウェブサイトに設置された国民請願掲示板には、里親により重い刑を望む請願があがり、1月2日に人気調査報道番組「それが知りたい」が事件を特集するとさらに多くの人に広まった。

SNSでの追悼のほか、墓参する女優も

その後、SNSを中心に「#정인아 미안해(ジョンインちゃん、ごめんね)」キャンペーン参加者が急増し、現在インスタグラムだけでも10万人近くの投稿が寄せられている。

芸能界からも声を上げるスターたちが登場した。世界的人気グループBTSのメンバーのジミンもSNSでハッシュタグキャンペーンに参加したところ、それを見たBTSのファンたち「ARMY」も投稿を始め、さらに陳情書の提出方法をシェアし多くのファンたちが提出したという。

また『宮廷女官チャングムの誓い』などで国民的人気女優イ・ヨンエは、自身の双子の子供たちと一緒にジョンインちゃんの眠る墓を訪れ、その後小児患者への治療費として1億ウォンを寄付した。他にも、ユ・ビョンジェ、チャン・ユンジュら有名人たちが続々と児童虐待被害者のための関連団体に寄付をしている。歌手ションは、ジョンインちゃんを忘れないためにも追悼マラソン開催を呼び掛けているという。

さらに、本人も里親として2人の娘を育てている女優シン・エラは、SNSで「今この瞬間もジョンインのような被害者が泣いている」と、これ以上被害者が増えて欲しくないという願いを投稿し注目を集めた。

追悼のトレンドワードの悪用まで

一方で、この注目度を利用しようとする不届きな輩もいる。SNSでハッシュタグ「#정인아 미안해(ジョンインちゃん、ごめんね)」が人気ワードになると、中華料理屋、マカロン専門店、デザートカフェなどが、自身のお店や商品の宣伝投稿にジョンインちゃんのハッシュタグを付けはじめ非難が集中した。

また、「ジョンインちゃん、ごめんね」というロゴのついたTシャツ、タオル、スマホケース、クッション、アイポッズケースなどのグッズまで登場。虐待死を利用していると多くの抗議を受けることとなった。

グッズの発売元は、「ジョンインを忘れないためにも、より広くこの事件を広めたかった」と反論したものの、結局謝罪文を公表し販売を中止する事態となった。

筆者の多くの韓国人の知人たちも自身のSNSにジョンインちゃんへの追悼を投稿している。虐待内容も衝撃的だったが、なによりも里親に引き取られる前と後のジョンインちゃんの写真に写った表情に大きなショックを受けた。同じ人物とは思えないほど違っていたからだ。いくら里親が弁解の言葉を並べても、ジョンインちゃんの表情が全てを物語っている。裁判は今始まったばかりだが、里親二人にどのような判決がでるのか今後も見守っていきたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中