最新記事

ISSUES 2021

「現代版スターリン主義者」習近平が踏み出した相互不信と敵意の道

CHINA’S FATEFUL YEAR

2021年1月15日(金)17時40分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

イデオロギー面では、新型コロナに対する中国側の初期対応、とりわけ最初に警鐘を鳴らした医師たちへの弾圧や地方官僚による隠蔽工作、さらには「戦狼外交」と呼ばれるけんか腰の対応に、西側諸国は幻滅した。

2020年10月に米ピュー・リサーチセンターが欧米と日本、韓国の富裕14カ国で行った調査によれば、回答者のほぼ4分の3は中国に好印象を抱いていなかった。短期的には、これらの諸国は中国との経済関係を縮小し、人権問題や領土問題では敵対的な姿勢を強めることになるだろう。

一方で、習が現代版スターリン主義者であることも明らかになった。その証拠が2020年に香港に導入した国家安全維持法だ。まず香港では、犯罪容疑者の身柄を中国本土に引き渡すことを可能にする逃亡犯条例改正案が立法会(議会)に提出された2019年4月以来、激しい抗議が続いていた。

この抗議運動は大いに盛り上がり、共産党の指名した香港行政長官が辞任を口走るところまで追い詰められた。

表面上、それは行政長官の直接選挙を求めたが失敗に終わった2014年の「雨傘革命」の延長線上にあるように思えた。だが共産党はそれをもっと大きな脅威と見なした。学生だけの運動ではなく、一度に200万もの市民が集結するなど、前例のない規模に膨れ上がっていたからだ。

もちろん、デモ隊の要求に応じるわけにはいかない。絶対的指導者としてのイメージを守り、優柔不断のそしりを免れるためにも、習には市民の反乱を黙認するという選択肢はなかった。

だから彼は、「国家の安全を危険にさらす活動」という漠然とした行為に対して終身刑を含む厳罰を科す国家安全維持法の導入を決めた。香港の憲法に相当する「基本法」の第23条は、香港の立法会だけにこうした法律の制定権限を認めている。だが習はこれを無視し、中国本土の全国人民代表大会(日本の国会に相当)を動かして法案を起草させ、採択させた。

この法律は2020年6月30日に施行され、香港に約束されていた「一国二制度」(2047年までは香港に一定の自治権を認めるとした合意)は実質的に葬られた。

なんとも強権的なやり方である。これで一時的には民主派を抑えられるかもしれないが、長い目で見れば西側諸国との関係を修復不能なほどに傷つけたことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中