最新記事

事件

見逃されたアラート アメリカ議事堂暴動を許した警備の「死角」

2021年1月8日(金)19時35分

写真は6日、米連邦議会議事堂に侵入したトランプ氏支持者ら(2021年 ロイター/Shannon Stapleton)

トランプ米大統領の支持者が6日に暴徒化し、警官隊を押しのけて連邦議会議事堂に乱入した。その結果生まれた流血を伴う大混乱について複数の司法・警察関係者は、警備態勢の準備が最悪だったと指摘している。

現役あるいはかつての司法・警察などの関係者によると、大統領就任式のような大きな行事の場合、さまざまな治安機関が念入りに警備計画を練り上げるが、11月の大統領選挙結果を議会が正式認定する1月6日の上下両院合同会議は、いつもは地味な存在で、今回もそこまで緻密な警備が整えられないまま開催された。

しかし、トランプ氏の「選挙は盗まれた」という根拠のない主張で気分を高揚させた過激な一部支持者らについては、暴力行為に走る可能性を示す明らかな兆候が事前に幾つもあった。

議会警察、暴動の懸念あっても応援要請せず

事件の初期の段階まで、警備対応は議会警察にほぼすべて任されていた。議会警察は2000人から成り、議事堂警備の専門組織だ。他の連邦政府の治安部隊が現場に到着したのは、乱入者が議事堂内部を占拠してから数時間が経過してからだ。

乱入が始まる直前には議事堂のすぐ近くで、大統領選に異議を唱える集会を開いたトランプ氏が演説。投票の発表結果について「われわれの民主主義に対するひどい攻撃」と訴えるだけでなく、支持者らに対し、議事堂まで「米国を救う行進」をしようと呼び掛けていた。

本来であれば、連邦議会による大統領選結果認定はごく形式的な手続きにすぎない。ただ今回に限ってはソーシャルメディア上で何週間も前から、トランプ氏支持者が抗議を計画していること、暴動に発展する恐れがあることが認識されていた。

関係者によると、それにもかかわらず議会警察は公共の安全維持を担当する国土安全保障省など他の連邦機関に警備の応援を事前に要請していなかった。首都ワシントン市長の要請を受けて州兵が出動したのは、議事堂の最初のバリケードが突破されてから1時間以上たった後だった。

議会警察のサンド長官は7日の声明で、今回の事件や警備計画、各種政策措置などを全面的に見直していると弁明。議会警察として、言論の自由を定めた合衆国憲法修正第1条に関するデモ活動などに対応する計画はしっかりあったとした上で、今回はそうした活動ではなく犯罪的な暴動行為だったと指摘。警察官一人一人の振る舞いは、彼らが直面した状況を踏まえれば英雄的なものだったと擁護した。

サンド氏の話では、現場の警察官は鉛でできたパイプや刺激性の化学物質などで攻撃されたもよう。民主党のティム・ライアン下院議員のビデオ会見によると、警察官は最大60人が負傷し、今も15人が入院、1人は重体に陥っている。多くは乱入者から殴打され、頭部にけがを負っているという。

7日午後、ペロシ下院議長はサンド氏の辞任を要求した。下院警備局長から辞職の申し出があったとも語った上で、「議会警察のトップは指導力が欠如していた」と批判した。他の連邦機関にも事前の警備計画を策定しなかった過ちがあるとし、責任は議会警察だけにとどまらず多くの行政機関に及ぶと強調した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレに忍耐強く対応、年末まで利下げない可能性=

ワールド

NATO、ウクライナ防空強化に一段の取り組み=事務

ビジネス

米3月中古住宅販売、前月比4.3%減の419万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請、21万2000件と横ばい 労働
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中