最新記事

民族紛争

アゼルバイジャン=アルメニアの紛争激化 ロシアとトルコ巻き込む対立懸念

2020年9月29日(火)10時09分

写真は攻撃をするアゼルバイジャン軍。同外務省提供(2020年 ロイター)

旧ソ連のアゼルバイジャンとアルメニアの間で勃発したナゴルノカラバフ地域を巡る戦闘は28日、一段と激化し、双方がロケット弾などで攻撃を続ける中、少なくとも55人が死亡した。

事態が悪化すれば、アルメニアと防衛協定を結んでいるロシアとアゼルバイジャンのトルコ系住民を支援するトルコを巻き込んだ地域紛争に発展する恐れがある。

ナゴルノカラバフ当局によると、アゼルバイジャンの攻撃により28日にナゴルノカラバフの兵士53人が死亡した。27日には31人が死亡、約200人が負傷したとしている。

アゼルバイジャン当局は28日に一般市民2人が死亡したと発表。27日には5人が死亡、30人が負傷した。アゼルバイジャン軍の負傷者については公式な情報はない。

ナゴルノカラバフ指導者のアライク・アルトゥニアン氏は記者会見で「これは生きるか死ぬかの戦争だ」と述べた。

アゼルバイジャンでは27日の戒厳令発令に続き、この日は部分的な軍隊動員が宣言された。アルメニアとナゴルノカラバフでも27日に戒厳令が敷かれ、アルメニアでは18歳以上の男性の出国が禁止されている。

クライシス・グループの南コーカサス地域担当シニアアナリスト、オレーシャ・バルタニヤン氏は「1990年代の停戦以降、このような戦闘は発生しなかった。全ての前線で戦闘が行われている」と述べた。

その上で、ロケット弾などによる攻撃が行われていることで、一般市民が巻き添えになる危険性が増しており、事態悪化阻止に向けた外交努力が困難になる恐れがあると指摘。「大勢の死傷者が出れば、事態の抑制は極めて難しくなり、トルコもしくはロシアが介入する全面的な戦争に発展するのは必至だ」と述べた。

こうした中、ロシアは双方に即時停戦を求めた。

トルコのエルドアン大統領は、アルメニアに対し直ちにアゼルバイジャンから撤収するよう要請。ナゴルノカラバフ問題に決着を付ける時が来たと述べた。

英国のジョンソン首相はこの日、トルコのエルドアン大統領と電話会談を行い、この問題について協議。英首相府は、英国がナゴルノカラバフを巡る紛争の収束を呼び掛けているとした。

アルメニア議会は、アゼルバイジャンによるナゴルノカラバフへの「全面的な軍事攻撃」を非難。アルメニア外務省の報道官は、トルコがアゼルバイジャンにドローンや戦闘機を提供し、トルコの軍事専門家が戦闘に加わっていると主張した。アゼルバイジャンはこれを否定、トルコは現時点でコメントしていない。

ただ、エルドアン大統領やトルコ政府高官はこれまでに、アゼルバイジャンへの支援を表明している

1990年代のナゴルノカラバフ紛争では、アルメニアとアゼルバイジャンの双方で大勢の難民が発生した。

新たな衝突を受け、石油・天然ガスの重要輸送路に当たる南コーカサス地方の政情不安定化を巡る懸念が再燃している。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる
・日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに動画が拡散


202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

LSEG、第1四半期決算は市場予想と一致 MSとの

ワールド

北朝鮮製武器輸送したロシア船、中国の港に停泊 衛星

ビジネス

大和証G、1―3月期経常利益は84%増 「4月も順

ビジネス

ソフトバンク、9月末の株主対象に株式10分割 株主
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中