最新記事

東南アジア

インドネシア、パプアで襲撃テロ事件2人死亡 特別自治法期限を前に

2020年9月19日(土)20時43分
大塚智彦(PanAsiaNews)

パプア地方に増派された約3000人ともいわれる治安部隊は依然として現地に止まり続けている。 Antara Foto/Zabur Karuru/ via REUTERS

<独立自治を目指す抵抗運動は、治安当局と衝突で果てしない負の連鎖へ>

インドネシアの東端、ニューギニア島の西半分を占めるインドネシア領のパプア地方(西パプア州、パプア州)では長年独立を求める反政府武装組織による抵抗運動が細々ではあるが絶え間なく続いており、インドネシア政府、治安当局にとって頭の痛い問題となっている。

インドネシアで最も貧困率が高く、インフラや教育が遅れているとされるパプア地方の開発を念頭にした「パプア特別自治法」(2001年制定)が2021年に終了期限を迎えるが、同法を延長や改訂するか、あるいは破棄すかなどの協議も一向に進んでいない。

そのパプア地方のパプア州インタンジャヤ県で9月17日、2件の襲撃事件があり、一般市民1人と陸軍兵士1人の合計2人が死亡した。

パプア州では折からのコロナウイルス感染拡大で州政府や県や郡レベルでも感染症対策が急務となるなか、2020年3月以来武装組織による襲撃事件や治安部隊との銃撃戦が断続的に発生するなど治安悪化が伝えられていた。

住民と兵士を相次いで襲撃、殺害

パプア州の国軍統合部隊幹部によると、9月17日午前10時50分ごろ、インタンジャヤ県スガパ郡ビロガイ村でバイクタクシー運転手のバダウィ氏(51)が正体不明の男性らに襲撃され、斧で左腕を切られたことによる出血多量で死亡した。

また同村で同じ日の午後2時20分ごろ、物資輸送の任務についていた陸軍のサラン軍曹がやはり正体不明の集団から銃撃を受け、その場で死亡が確認された。サラン軍曹は隣接するヒタディパ郡に駐留する軍の村落指導員としてパプア人住民の治安保護と生活支援の任務に従事していたという。

軍報道部によると、この日の襲撃に先立って14日にも同村付近で2人のバイクタクシー運転手が襲われる事件も起きていた。2人の運転手は負傷して現在病院で手当てを受けているとしている。

こうした相次ぐ同地域での襲撃事件について治安当局は「一連の事件は犯罪集団による犯行である」として現在、警察、軍の合同チームなどが周辺地域で犯行グループの追跡捜索を行っているという。

これまでも同様だが、治安当局や地元地方自治体は一般市民や警察官、兵士を狙った襲撃事件は「単なる犯罪者集団による犯罪行為である」と強調して、その逮捕に全力を挙げる姿勢を示すのが恒例となっている。

しかし現地情報に詳しい人権団体やパプア人組織によると、こうした襲撃はインドネシアからの独立を目指す武装組織「自由パプア運動(OPM)」と関係が深い「西パプア民族解放軍(TPNPB)」の分派に属する小グループによる犯行で、抵抗運動の一環と位置づけられている。

政府の「アメとムチ」が招いた負の連鎖

パプア州の中央山間部から南部に広がるインタンジャヤ県やンドゥガ県、ミミカ県では3月以降、複数の襲撃事件が起きている。

特に3月30日にミミカ県にある世界有数の金・銅鉱山「グラスベルグ鉱山」事務所でニュージランド人従業員が殺害される事件を契機に、複数の襲撃事件が連続して発生する事態に発展。治安当局はこれらの事件への関与が濃厚として「西パプア民族解放軍(TPNPB)」(治安当局はTPNPBも犯罪者集団とみなしている)への集中的な掃討作戦を継続している。

8月16日にはニュージランド人殺害事件に関わった組織の地域司令官を殺害したことを州警察本部長が明らかにするなど、襲撃と掃討の連鎖が続き、パプア地方での治安悪化が現実のものとなっていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ中銀、経済成長率加速を予想 不透明感にも言及=

ワールド

共和予備選、撤退のヘイリー氏が2割得票 ペンシルベ

ビジネス

国内債は超長期中心に数千億円規模で投資、残高は減少

ワールド

米上院、TikTok禁止法案を可決 大統領「24日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中