最新記事

心理

なぜ私たちは殺人と誘拐、宇宙人と幽霊が大好きなのか

Why We Love Mysteries

2020年8月12日(水)15時40分
ダリル・スパークス(サザンクイーンズランド大学上級講師〔メディア論〕)

犯罪実録ストーリーを通じて自らは安全な場にいながら人間の闇に触れられる Courtesy of Netflix

<根強い人気を誇る往年のテレビシリーズ『未解決ミステリー』がネットフリックスで復活>

1987年に放送が始まったアメリカのテレビ番組『未解決ミステリー』は、何百もの不可思議なストーリーを取り上げて多くの視聴者をとりこにした。

私たちは、理屈では説明のつかない出来事や現象に魅了されずにいられないらしい。テレビシリーズは2010年に終了したが、根強い人気を受けて動画配信サービスのネットフリックスが最新シーズンを制作。この7月1日から配信が始まった。

30年以上続く人気の秘密はどこにあるのか。このミステリーを解くのは難しくない。

この番組は、常に2種類のエピソードで構成されてきた。殺人や誘拐などの現実の犯罪を取り上げたエピソードと、宇宙人による誘拐や幽霊、悪魔などを扱ったエピソードだ。一見すると全く性格が異なるように思えるかもしれないが、これらを好む心理の根底にある要素は共通している。

人間は、一見すると合理的に説明できない現象を信じる傾向が強い。オーストラリアのSF専門チャンネル「サイファイ」(現「フォックス・サイファイ」)が14年にオーストラリアで行った調査によると、超常現象が本当に存在しても不思議ではないと考える人は88%、幽霊や精霊の存在を信じる人は50%、UFOや宇宙人の存在を信じる人は42%に上っている。

さまざまな出来事や現象の背後に、独立した意図を持った何者かが存在すると見なすのは、人間の特質だ。

哲学者のスティーブン・ローが指摘するように、この性質は自己防衛の手だてになっているらしい。茂みで物音がしたときに人が警戒できるのはこのおかげだ。このような人間の特質は、自然現象などをもたらす存在として悪魔や神を信じる一因と言える。

他人の不幸は蜜の味?

非合理なことを信じ続ける性質は、人間の心理に深く根を張っているようだ。

社会心理学者のジェニファー・ウィットソンとアダム・ガリンスキーによれば、人はしばしば、自分の周りで起きている出来事に兆候やパターンを読み取ろうとする。実際は兆候やパターンなど存在しないにもかかわらず、である。人は無秩序で不自然な状況に身を置いたとき、秩序を強く欲するものなのだ。

生化学的要因を強調する研究者もいる。神経科学の研究によれば、実験参加者に「神」という言葉を含むフレーズを聞かせると、脳の特定部位が活性化して肯定的な感情が生まれると分かっている。

一方、実際に起きた犯罪のストーリーを通じて、自らは安全な場にいながら人間の闇に触れられることが魅力なのだろうと指摘するのは、心理学者のメグ・アロールだ。スリリングな犯罪の物語がアドレナリンを噴き出させる面もあるかもしれない。特に女性にとっては、犯罪から身を守るヒントを得られることも魅力の1つと言えそうだ。

この種の番組のファンには、他人の不幸を喜ぶ心理もあるのだろう。犯罪実録ストーリーを通じて、「自分でなくてよかった」という安堵の気持ちを味わえるのだ。

人はいつ犯罪や超常現象の犠牲になっても不思議はない――『未解決ミステリー』の魅力は、そうした思いを(自宅のソファの上で)改めて抱けることなのだろう。

The Conversation

Daryl Sparkes, Senior Lecturer (Media Studies and Production), University of Southern Queensland

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<本誌2020年8月4日号掲載>

<関連記事:新型コロナでテレビニュースは再び黄金時代を迎えたのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ビジネス

米国株式市場=S&P上昇、好業績に期待 利回り上昇

ワールド

バイデン氏、建設労組の支持獲得 再選へ追い風

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中