最新記事

サミット

G7ならぬ「D10」がトランプと中国の暴走を止める切り札

Forget the G-7, Build the D-10

2020年6月11日(木)19時10分
エリック・ブラッドバーグ(米カーネギー国際平和財団欧州プログラム主任)他

このままではダメ?(写真は、2019年8月にフランスのビアリッツで開かれたG7) Andrew Harnik/REUTERS

<G7はまた延期になったが、トランプと同盟国の亀裂が広がる中、どのみち実りある議論は期待できなかった。外交巧者のイギリスが代わりに提唱するD10のアイデアは注目に値する>

ドナルド・トランプ米大統領が6月半ばに開催する意向を示していたG7サミットはまたも延期されることになった。残念と言えば残念だが、実質的には大した影響はない。パンデミックが世界を揺るがすなか、いや、それ以上に、アメリカと同盟国の亀裂が広がるなか、主要国の指導者が顔を突き合わせて話せないのは残念だが、どのみちトランプが舵取りをする限り、実りある議論は期待できない。トランプの呼びかけに、他国の首脳が気乗り薄だったのもそのためだ。

トランプもG7が時代の要請に合わなくなっていることに気づいているらしく、9月以降に延期された首脳会議には、インド、韓国、オーストラリア、ロシアを招待したいと言いだした。だが主要な民主主義国の指導者の集まりに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を招くのは、どう考えてもお門違いだ。G7とは別に、中国、ロシアなど新興国も交えたより広い枠組みとして、G20が既にあるあるのだから、なおさらだ。

そうしたなか、大西洋の向こうでは、より建設的な枠組みを目指す動きが進んでいる。ボリス・ジョンソン英首相が提唱している民主主義国10カ国の連合「D10」だ。G7に韓国、インド、オーストラリアを加えた新たな枠組みで、第5世代(5G)移動通信システムとサプライチェーンについて話し合おうというのである。

「戦狼」外交を進める中国

D10のアイデア自体は目新しいものではないが、パンデミックで中国頼みのサプライチェーンの脆弱性が明らかになり、米中対立がエスカレートするなか、この枠組みは注目を集めている。

中国は湖北省武漢でのCOVID-19発生時の初動対応のまずさと透明性の欠如から世界の目をそらそうと躍起になる一方で、「戦狼外交」を展開している。戦狼は中国で大ヒットした映画のタイトルで、ランボーもどきの主人公が「中国を侮辱する者」に血の復讐をする。中国外務省はそれを地で行く「口撃」を繰り返しつつ、COVID-19「封じ込め成功」を大々的に宣伝し、アメリカとその同盟国に対し、ネット上で偽情報キャンペーンを繰り広げている。

一方で、中国製のマスクや医療機器の不具合を伝える報道が相次ぎ、中国頼みの5Gインフラやサプライチェーンのあり方に警戒感が高まっている。当初は、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の5G市場参入を容認してきたイギリスやカナダ、ドイツなども規制強化に転じた。アメリカばかりか、EUや日本も、医薬品や医療機器その他重要な製品や部品、原材料の調達における中国の比重を減らそうとサプライチェーンの分散化を進めつつある。

<参考記事>韓国のG7参加を嫌う日本と冷静な韓国との差異
<参考記事>日米欧「反中」議員連盟発足、中国の「切り離し」を呼びかけ
<参考記事>欧州で強まる反中感情

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中