最新記事

中国マスク外交

中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで浮上する第2の道とは

TWO PATHS TO GLOBAL DOMINATION

2020年6月27日(土)18時21分
ハル・ブランズ(ジョンズ・ホプキンズ大学教授)、ジェイク・サリバン(カーネギー国際平和財団上級研究員)

今日の中国が同様の発想を抱いていると見なせる材料は確かにある。中国が取っている行動の多くは、西太平洋に支配を確立するために計算されたものに見える。

まず、中国は防空能力と海軍力の整備を強力に推進している。これは、アメリカ軍の艦船や航空機を自国に近寄せないために必要なものだ。南シナ海と東シナ海を自国の内海のようにすることにも力を注いでいる。

アジア支配は容易ではない

中国は、アメリカと同盟国や友好国の関係を引き裂くことにも腐心してきた。「アジア人のためのアジア」という考え方も強調している。これは、アジアの問題はアジア諸国で解決し、アメリカの口出しを許すべきではないと言っているに等しい。

もう1つ見落としてはならないのは、台湾征服に必要な軍事力を擁していると公言し続けていることだ。台湾が中国に武力で征服されれば、地域のパワーバランスは一夜でひっくり返る。アメリカがほかの同盟国や友好国を守れるかという点にも疑問符が付くだろう(一部の専門家によれば、今すぐ、もしくは数年以内に台湾海峡で米中が戦火を交えるかどうかは五分五分だという)。

しかし、中国がこの道を進むと決め付けるべきではない。今日の中国が近隣諸国を影響下に置くことは、アメリカがかつて西半球を影響下に置いたときよりはるかに難しい。そのことには、中国指導部も気付いているはずだ。

中国のすぐそばに、地域の大国で、しかも中国より強大な超大国の同盟国でもある国がある。日本のことだ。中国が「第1列島線」の先まで影響力圏を広げるには、日本が大きな障害になる。この点で、かつてのアメリカとは状況が異なる。

中国は、インド、ベトナム、インドネシアなど、多くのライバル国にも囲まれている。それに、自国のことを──単に目障りな存在というだけにとどまらず──最大の脅威と位置付けている超大国がある(言うまでもなくアメリカのことだ)。

つまり、地域レベルの覇権を確立して、それを足掛かりにグローバルな超大国の地位を確立するというアプローチが成功する保証はない。そこで、中国が世界のリーダーを目指すためのもう1つの道に目を向ける必要がある。

その第2の道を選ぶ場合、中国は少なくとも差し当たり、アメリカをアジアから追い払うことを(不本意ながらも)断念する。代わりに力を入れるのは、世界の経済ルールと、テクノロジーの標準、政治的制度を自国に有利なように形づくることだ。

【関連記事】日本が中国と「経済的距離」を取るのに、今が最適なタイミングである理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

LSEG、第1四半期契約の伸び鈍化も安定予想 MS

ビジネス

独消費者信頼感指数、5月は3カ月連続改善 所得見通

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中