最新記事

サイエンス

細菌のDNAにデジタルデータを埋め込むことに成功 究極のタイムカプセルに

2020年3月3日(火)19時00分
松岡由希子

永続的にデータを保存できる...... JOE DAVIS

<長期にわたって記録を保持できる媒体として、DNAの潜在能力を探究する動きが現れはじめているが、今回、細菌のDNAにデジタルデータを埋め込むことに成功した......>

デジタルテクノロジーの進化と普及に伴って、データ量はますます増加している。IT専門調査会社IDCによると、2018年時点で33ゼタバイトであった世界のデータ量は2025年までに5倍以上増加し、175ゼタバイトに達すると予測されている。

現在、記録媒体として広く用いられているCDやDVDなどの光ディスクは、紫外線や湿気の影響を受けやすく、取り扱いや保存状態によって酸化劣化する。フラッシュディスクやハードディスクドライブ、磁気テープなども経年劣化が避けられない。そこで、長期にわたって記録を保持できる媒体として、DNAの潜在能力を探究する動きが現れはじめている。

保存されたデータをほぼ永続的にそのままの状態で保存できる

米ハーバード大学に所属する科学者でアーティストのジョー・デイビス氏は、高度好塩性古細菌「ハロバクテリウム・サリナルム」の遺伝子にデジタルデータを埋め込むことに成功し、2020年2月15日、未査読の研究論文をプレプリント・レポジトリ「バイオアーカイヴ」で公開した。

ハロバクテリウム・サリナルムは、塩分濃度の高い環境で生息する高度好塩菌の一種で、極限環境に耐性を持つ。米ジョンズ・ホプキンス大学の生物学者ジョスリン・ディルジエッロ准研究教授は、学術雑誌「サイエンス」で、ハロバクテリウム・サリナルムを記録媒体に活用することについて「いいアイデアだ」と評価している。

ハロバクテリウム・サリナルムは、DNAを損傷する活性酸素種を消去するのに長けているほか、酸化損傷の修復によってDNAに保存されたデータをほぼ永続的にそのままの状態で保存できる。また、栄養が失われると環境が改善するまで増殖を停止させ、最小限の栄養で塩の中で何千年でも休眠できる。

マイクロソフトもDNA分子をデータ記憶装置活用に着手

デイビス氏は、スラブ神話の「不死身のコスチェイ」をモチーフにした卵と針の3次元画像の座標をコード化して、ハロバクテリウム・サリナルムのゲノムに埋め込んだ。改変された細胞は自己複製した後も、重要な情報をそのまま保持していたという。

DNA分子をデータ記憶装置に活用する研究活動としては、マイクロソフトでも米ワシントン大学と共同で2015年に着手。2019年3月21日には、人工的に作製されたDNAでデータを保存したり、取り出したりする自動システムの開発に初めて成功している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中