最新記事

仮想通貨

仮想通貨の扱いが、日米の会計基準で大きく異なるのはなぜか

2020年1月29日(水)12時16分
木村兼作(公認会計士)

metamorworks-iStock

<仮想通貨というまったく新しい資産を、無理やり既存の資産の枠に当てはめようとする試みが、制度の歪みを生んでいる>

仮想通貨の会計処理について、2019年の12月に米国公認会計士協会(AICPA)は "Accounting for and Auditing of Digital Assets(デジタル・アセットの会計と監査)"と題されたガイダンスをリリースしました。この指針は正式な会計基準ではないものの、AICPAがリリースしているということで米国基準(USGAAP)に基づく会計処理を行う場合は参考にされるのは間違いないでしょう。

日本基準(JGAAP)に関しては2018年3月に「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」がABSJ(企業会計基準委員会)からリリースされています。クリプトに関する日本の会計基準についてはこちらの記事で解説しています。

日本から二年近く遅れる形でアメリカのデジタルアセット(以下、クリプト)に対する会計の考え方が明らかになったわけですが両者の間には大きな違いがあります。

会計基準差をGAAP差といいますが、クリプトに関しては早くもJGAAPとUSGAAPとの間に大きなGAAP差ができたといえます。今回は個人的に最も大きいと思われるGAAP差にフォーカスしたいと思います。その違いはクリプトの評価に関連します。

具体的なGAAP差を見る前に、今回のAICPAのガイダンスを読んで個人的に面白いと思った点についてまず紹介します。

■Ether(ETH)は証券ではないとAICPAは考えている

ガイダンスのQuestion 1では、特定の業種に関するガイダンスを適用していない企業(簡単に言ってしまえば金融機関以外の普通の会社)が、現金で購入したクリプト・アセットをどのように会計処理すべきか? が問われています。

そしてここでいうクリプト・アセットとは以下のような特徴を持ったデジタル・アセットとしています:


1. どこかの監督官庁によって発行されたものではない
2. 保有者とそれ以外の当事者との間に契約関係を発生させない
3. 1933年証券法、1934年証券取引法における証券に該当しない

面白いのはこれらの特徴をもつクリプト・アセットとしてビットコイン、ビットコイン・キャッシュ、そしてイーサリアムが例示されている点です。

ビットコイン、ビットコイン・キャッシュについては証券か証券でないかという議論は通常おきません。しかしイーサリアム関してはICOによる資金調達をしていたり、ICOを行った段階ではプロダクトがリリースされていなかったり、開発者の影響が強かったりと証券性が強いとする議論が未だ根強く残っています。

過去に米証券取引委員会(SEC)はセキュリティ・トークンだったものが実態の変化によってユーティリティ・トークンに変わることもあり得る(逆もしかり)としているのでそのような考え方が今回のガイダンスの作成にあたって考慮されたものと思われます。いずれにしてもSECが未だイーサリアムの証券性について明確なスタンスを表明していない中、AICPAがイーサリアムを証券ではないと言い切ったことは面白いと感じました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中