最新記事

異常気象

海洋熱波によりおよそ100万羽のウミガラスが餓死していた

2020年1月22日(水)19時00分
松岡由希子

アラスカ州からカリフォルニア州までの海岸に大量のウミガラスが漂着した 2016年COASST

<2014年から2016年半ばにかけて発生した海洋熱波「ブロブ」によって大量のウミガラスが餓死してたことがわかった......>

アラスカ州からカリフォルニア州までの西海岸沖で2014年から2016年半ばにかけて発生した海洋熱波「ブロブ」が海洋生態系に甚大な影響をもたらしている。

大量の藻類の異常発生に加え、数多くのカリフォルニアアシカが海岸に座礁したことがこれまでに確認されたほか、2015年から2016年にアラスカ州からカリフォルニア州までの海岸に漂着した大量のウミガラス(海烏)の死骸も一連の海洋熱波と関連している可能性があることがわかった。

●参考記事
5年前に海洋生態系に甚大な影響を及ぼした「海洋熱波」が再び発生

matuoka0912a.jpg

これほどの規模のウミガラスの死骸が発見されるのは前例がない

米ワシントン大学、アメリカ地質調査所(USGS)らの研究チームが2020年1月15日にオープンアクセスジャーナル「プロスワン」で発表した研究論文によると、2015年夏から2016年春までの間、アラスカ州からカリフォルニア州の浜辺で、死亡もしくは瀕死状態にある約6万2000羽のウミガラスが確認された。このうち4分の3はアラスカ湾で見つかり、残りは西海岸沿いで発見されている。

長年、アラスカ州の浜辺に漂着するウミガラスの数をモニタリングしているアマチュア科学者によると、その規模は平年に比べて1000倍だという。漂着が確認されたウミガラスの死骸は全体のごく一部とみられ、研究チームでは、死亡したウミガラスの数は、およそ100万羽にのぼると予測している。

研究論文の筆頭著者であるアメリカ地質調査所のジョン・ピアット博士は「これほどの規模のウミガラスの死骸が発見されるのは前例がない」とし、「海洋の温暖化が海洋生態系に甚大な影響をもたらすおそれがあることを示している」と警鐘を鳴らしている。

漂着したウミガラスの多くはひどく衰弱しており、餓死したとみられている。ウミガラスをはじめとする海鳥は、毎日、体重の半分くらいの餌を捕食する。しかしながら、「ブロブ」に伴う海水温の上昇により、動物プランクトンからサケやスケトウダラなどの大型捕食魚まで、海洋に生息する様々な変温動物の代謝が上がり、ウミガラスの餌となる魚を大型捕食魚が大量に消費したことで、ウミガラスは十分な餌を得ることができず、餓死したようだ。

ニュージーランドの東側でも海洋熱波が発生

研究チームでは、ウミガラスのほか、同じく海鳥の一種であるエトピリカやアメリカウミスズメ、アシカ、ヒゲクジラの大量死も確認している。研究論文の共同著者であるワシントン大学のユリア・パリッシュ教授は「これらの現象はすべて、海水温の上昇が平常時の海洋環境を変え、多くの海洋生物にとって沿岸生態系を変化させてしまうことを示すものだ」と述べている。

NL6KZRVTEFHZ3OBSLTXRSNB2MI.jpg
ClimateReanalyzer.org

「ブロブ」と同様の海洋熱波は2019年夏にも米国西海岸沖で発生しているほか、2019年12月には、ニュージーランドの東側の太平洋でも大規模な海洋熱波が観測されている

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中