最新記事

GSOMIA延長

「韓国に致命的な結果もたらす」文在寅を腰砕けにしたアメリカからの警告

2019年11月22日(金)19時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

文在寅はアメリカからの度重なる警告にもかかわらずGSOMIA破棄に執着してきた Presidential Blue House/REUTERS

<アメリカはもしかしたら、いっそう強力な警告を韓国政府に行っている可能性もある>

韓国政府は22日、日本政府に対し、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効を当面回避すると通告した。韓国政府は8月、同協定の破棄を決定。失効の期限(23日午前0時)直前に撤回した形だ。

韓国の文在寅大統領は直前まで、輸出規制強化措置を取った日本の姿勢に変化がなければ、破棄の撤回はできないと強気の姿勢を示していた。それが急転直下の撤回となった理由が、米国からの強烈な圧力であったのは明白だ。

ロイター通信によれば、米国防総省のホフマン報道官は21日の声明で、韓国が在韓米軍の駐留経費負担の大幅増額に応じない場合、1個旅団の撤収を検討しているとした韓国紙・朝鮮日報の同日付の報道を否定した。

声明は「今週、韓国を訪問していたエスパー国防長官は、韓国国民への揺ぎないコミットメントを繰り返し表明していた。このような報道は、1人の匿名の関係筋情報を基にした報道の危険で無責任な欠陥を露呈している。朝鮮日報には記事の即時撤回を要求している」という、かなり強い調子のものだ。

在韓米軍の大幅縮小に関する情報が北東アジアの安保に与える影響を考えれば、当然のことかもしれない。

しかし、国防総省のこのような否定にもかかわらず、近い将来、在韓米軍が大幅に縮小されるかもしれないとの懸念は、米韓の安保関係者や識者の間に、消しがたく漂っている。

そして、その懸念をいっそう強めているのが、韓国政府による日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の決定だった。

例えば、マイケル・グリーン米戦略国際問題研究所(CSIS)副所長は22日付の韓国紙・中央日報への寄稿文の中で「GSOMIA破棄は韓米同盟に打撃を与える決定であり、青瓦台はその深刻性を十分に認識できていない」と指摘。続けて、「GSOMIA破棄決定が招き得る最悪なこと」が何であるかについて触れ、「こうした状況は(トランプ米大統領による)在韓米軍撤収宣言の可能性につながる。韓米同盟の維持と強化のために努力してきた専門家らが想像もできない事態が生じるかもしれない」と警告していた。

もっとも、こうした警告はずっと前から出ていた。

たとえば外交問題評議会(CFR)シニア・フェローのスコット・スナイダー氏は米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し、「(韓国は)米国の仲裁を引き出すために(GSOMIA)をテコとして活用している側面があるが、これは(米国との)同盟の精神に反する行動だ」と指摘。また、「米国はGSOMIAが交渉のカードに使われることなど想定していない」としながら、「GSOMIAは韓国と日本の2国間関係だけでなく、米国を含む3者の協力とも密接に関係しているだけに、これを解体しようとする行動は、韓国に致命的な結果をもたらす」と述べていた。

韓国政府の中にも、その意味するところを理解している人々は大勢いた。しかし、かねてから対米コミュニケーションに難のあった文在寅大統領が破棄の断行に執着。遂にはこの状況にまできたわけだ。

<参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

<参考記事:「韓国外交はひどい」「黙っていられない」米国から批判続く

米国はもしかしたら、われわれが知るよりもいっそう強力な警告を韓国政府に行っている可能性もある。今後の情報の出方に注目したい。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に

ビジネス

米国株式市場=S&P上昇、好業績に期待 利回り上昇

ワールド

バイデン氏、建設労組の支持獲得 再選へ追い風
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中