最新記事

メディア

インドネシア、パプア巡り報道規制 K-POPや華流スターの偽SNSで情報操作も

2019年10月15日(火)15時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

インドネシアのパプア州ワメナでは携帯やネット、SNSの接続規制が敷かれ、当局による情報操作が行われている Antara Foto Agency - REUTER

<警官の差別発言をきっかけとして再燃したインドネシアのパプア問題。当局はデモ隊を武力鎮圧する一方、SNSでの情報操作も行っていた>

差別発言に端を発したインドネシア・パプア地方の騒乱状態は、増員された治安部隊による鎮圧作戦でひとまず混乱は収束したかにみえる。インドネシア各メディアは現地から「住民生活は平穏に戻った」「治安は安定化しており、心配ない」というレポートを流し続けている。

一方で当局は「偽情報や偽のニュースで混乱が拡大することを防止する」との理由で現地でのインターネットやWIFIの接続規制を現在も続けている。BBCの報道によると規制だけに留まらず現地パプア人の人権問題を支援する海外の支援者を情報通信法違反の容疑者に認定したり、K-POPスターや中国系人気俳優などのSNS上のアカウントや写真を「無断使用」したりして、パプア情勢の安定を装うなどのいってみれば「体制の側からの偽情報」を発信し続けるなど、パプアを巡る情報戦が過熱しているという。

混乱回避で通信網規制して情報遮断

インドネシアの東端、ニューギニア島西半分を占めるパプア州と西パプア州はインドネシアの中でももっとインフラ整備が遅れている。地元のメラネシア系住民と、移民政策などによって入植してきたジャワ島、スラウェシ島からのインドネシア人との間の経済格差、雇用格差そして差別が深刻な問題として長年存在してきた。

8月17日にジャワ島東ジャワ州スラバヤのパプア人大学生寮で起きた治安当局や周辺住民によるパプア人への差別発言問題は、インドネシア各地のパプア人による「差別反対」のデモに一気に拡大。その後、差別問題は「独立を問うパプア人の住民投票要求」という極めて政治的問題に発展。パプア州各地のデモが暴徒化し、暴行と放火の嵐が吹き荒れる状態になった。

9月23日には山間部ワメナでデモが暴徒化し、公共施設などが放火され31人が死亡する事態に発展した。犠牲者の大半は移民や入植で現地で生活する非パプア人だった。

インドネシア当局は当初から「偽ニュースや偽情報による混乱拡大」を防ぐためとしてインターネットや携帯電話の接続制限に踏み切り、現在も一部地域で情報途絶状態が続いている。

特に中部山間部のワメナ周辺では現在もSNSの接続が制限されている。外国人報道陣や海外のパプア人人権支援組織にとって遠隔地であり、外国人の自由な立ち入りが制限されているパプア地方で何が起きているのかを知る「唯一の方法手段」が当局によって制限されていることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国当局、地方政府オフショア債への投資を調査=関係

ビジネス

TikTok米事業継続望む、新オーナーの下で=有力

ワールド

トランプ前米大統領、ドル高円安「大惨事だ」 現政権

ビジネス

米ペプシコの第1四半期決算、海外需要堅調で予想上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中