最新記事

イスラム国

バグダディを追い詰めた IS被害女性ケーラ・ミュラーの悲劇

Who Was Kayla Mueller? U.S. Baghdadi Operation Named After ISIS Victim

2019年10月30日(水)16時15分
クリスティーナ・チャオ

ケーラ・ミュラーの追悼式。遺体はまだ発見されていない(2015年2月18日、アリゾナ州プレスコット) Deanna Dent-REUTERS

<イスラム国最高指導者バグダディの自爆につながった米軍の作戦は「ケーラ・ミュラー」と名付けられていた。それはISの性奴隷にされ死亡したアメリカ人援助活動家の名前だ>

国家安全保障担当補佐官ロバート・オブライエンは10月27日、過激派組織イスラム国(IS)の最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディの死につながったアメリカの軍事作戦は「ケーラ・ミュラー」作戦と名付けられたことを発表した。ケーラ・ミュラーとは、ISに15カ月間拘束されて死亡した女性援助活動家の名前だ。

<参考記事>ノーベル平和賞のヤジディ教徒の女性が、ISISの「性奴隷」にされた地獄の日々

ミュラーはアリゾナ州プレスコット出身で、人道支援活動に従事していた。2013年8月、国境なき医師団が運営する現地の病院を訪問するためにトルコからシリアの都市アレッポに向かった後、ISに誘拐された。拘束されたまま各地を移動させられ、その後バグダディに拷問され、性的に虐待されたという。ミュラーがISに拘束されている間に死亡したことは2015年に確認されたが、遺体はまだ回収されていない。

ミュラーはISの拠点だったシリアの都市ラッカで、有志連合に参加するヨルダンの空爆によって死亡したとIS は主張する。ヨルダン政府とホワイトハウスは、ISの説明には根拠がないと反論している。ミュラーは26歳だった。

<参考記事>米軍に解放されたISの人質が味わった地獄

バグダディみずからが関与

「この男が何をしたか?ケーラを誘拐したんだ」と、ケーラの父親カール・ミュラーは、バグダディの死のニュースを受けて、アリゾナの地元紙に語った。「ケーラは各地の監獄に入れられた。独房に監禁され、拷問された。脅されて、最終的にはバグダディ自身にレイプされた。」

「バグダディはケーラをみずから殺したか、死に加担した。親としてはどう感じるべきか、この記事を読んだ人はぜひ考えてみてほしい」

ISの性奴隷にされた援助ワーカー、ミュラー


ミュラーは12年以来、トルコ南部のシリア難民を支援していた。国際援助機関「ライフ・トゥー・サポート」で働いていたが、アレッポへの旅は勤務とは関係なかったと伝えられた。

ミュラーは誘拐される前日、恋人と言われるシリア人男性と共にシリアに入国した。この男性は国際的な慈善団体でインターネット接続の仕事を請け負っていた。シリアに到着したとき、2人はシリアが国際支援活動家の立ち入り禁止政策を打ち出したことを知り、動揺した。車でトルコに戻ろうとしたが、待ち伏せされた。ミュラーとシリア人男性は誘拐された。男性はのちに解放された。

米ABCニュースによれば、ミュラーはキリスト教徒として希望を失うことなく、拘束中も信仰を守った。同じ監房にいたISの人質4人はABCのニュース番組で、彼女の勇気ある態度に励まされたと語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中