最新記事

環境

身の回りの化学物質が子供の健康を脅かす

Bad Chemistry

2019年3月5日(火)17時20分
レオナルド・トラサンデ(ニューヨーク大学医学大学院教授)

有害な化学物質に対する規制はお世辞にも十分とは言えない Thom Lang-Corbis/GETTY IMAGES

<農薬やプラスチック容器の原料などホルモンの正常な機能を妨げる化学物質を、なるべく体内に取り込まないためにできることは>

60年代前半、学校や公園では、子供たちがコンクリートの上を駆け回り、鉄製のブランコやうんてい、木製のシーソーで遊んだものだ。遊び場の風景は様変わりした。最近の子供たちは、人工芝やゴム素材を張ったグラウンドで遊んでいる。

今の子供たちが昔と変わった点は、これだけではない。子供が数十人いれば、1人か2人は自閉症スペクトラム障害の子供がいるだろう。深刻な学習障害の子供も数人いるに違いない。糖尿病、高コレステロール血症、高血圧なども増えた。

半世紀ほどの間に、何が起きたのか。糖の過剰摂取、野菜や果物の不足、運動不足が糖尿病や高血圧を引き起こす場合があることはよく知られている。しかし、DNA解析の結果、化学物質がさまざまな病気に関係している可能性も見えてきた。ある種の化学物質が、遺伝子の発現に影響を及ぼし、病気や障害の原因になるケースがあるのだ。

子供の遊び場に限らず、私たちの身の回りには多くの化学物質がある。日々の生活で触れる化学物質の中には、いわゆる内分泌攪乱物質も多い。この種の物質は、体内のホルモンが正常に機能することを妨げ、脳やその他の器官の細胞や組織に異常を生み出す場合がある。

昔は、これらの化学物質が体内にあるときに害が生じると思われていた。しかし、そうではないことが分かってきた。体内に取り込まれた化学物質が数日で排出された後も影響は残る。器官が発達途中の乳幼児は、とりわけダメージを受けやすい。

近年は有害な化学物質の規制も設けられ始めたが、規制はお世辞にも十分とは言えない。私たちの身の回りから有害な化学物質が完全に取り除かれる日は遠い先だろう。

科学的に解明できていないことはまだ多いが、広く用いられている4つのタイプの化学物質については研究がある程度進んでいる。その4つとは、農薬、可塑剤、プラスチック原料に用いられるビスフェノールA(BPA)、そして難燃剤だ。

以下では、これらの化学物質への接触を減らすために誰でもできる対策を紹介する。政府の規制が整備されるまでは自衛するしかない。ただし、これらの方法は、ラボ実験で常に期待どおりの結果が得られているわけではない。化学物質と人間の発達の関係には、まだ分かっていないことが非常に多いのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月以降の数回利下げ予想は妥当=エストニア

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中