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動物保護

中国、サイとトラの取引を一部解禁、世界中で懸念が広がる

2018年11月6日(火)16時10分
松岡由希子

25年ぶりの方針転換に、世界中で懸念が広がっている Siphiwe Sibeko-REUTERS

<中国で、医療などの目的に限定し、サイの角やトラの骨の取引規制を緩和することが明らかになり、世界中で懸念が広がっている>

中国では、1993年以降、サイの角やトラの骨の取引が一切禁止されてきたが、国務院は、2018年10月29日、科学的研究、医学研究および治療、文化財としての販売、文化交流のための提供という目的に限定し、この規制を緩和することを明らかにした。25年ぶりの方針転換に対し、世界中で懸念が広がっている。

人工飼育で粉末状にしたものは、認証した医療機関のみが使用できる...

国務院は、目的外での売買や使用については規制を強め、取引量を厳しく管理する方針を示すとともに、限られた目的でのサイとトラの取引や使用においても、新たな規制を定めている。

たとえば、科学的研究でのサイやトラの使用は、当局の承認を要し、サイやトラの皮膚、その他の組織、器官の検体は、一般公開の目的を除いて使用できない。また、医学研究および治療で使用するサイの角やトラの骨は、人工的に飼育・繁殖された"養殖もの"に限られ、これらを粉末状にしたものは、国家中医薬管理局が認証した医療機関で認証医のみが使用できる。さらに、文化財としての販売や輸出入、文化交流のための提供には、文化観光部と国家文物局の承認が必要となる。

トラやサイの"養殖"産業に利益をもたらそうとしている?

国際自然保護連合(IUCN)が絶滅のおそれのある野生生物を分類した「レッドリスト」によると、世界で生存する野生のトラは2154頭から3159頭と推定され、「絶滅危惧(EN)」に指定されている。また、サイの個体数は合わせて3万頭程度で、現生する5種類のうち、クロサイ、スマトラサイ、ジャワサイは「絶滅寸前(CR)」、インドサイは「危急(VU)」、シロサイは「準絶滅危惧(NT)」に分類されている。

中国がサイとトラの規制を緩和した狙いについては明らかになっていないものの、米紙ワシントン・ポストでは、「トラやサイの"養殖"産業に利益をもたらそうとしているのではないか」との環境保護団体の見解を採り上げている。

世界自然保護基金によると、近年、トラの人工繁殖が中国やタイ、ラオス、ベトナムなどで盛んに行われ、その規模は7000頭から8000頭にのぼり、野生のトラの個体数の保護や改善の妨げになっているとの指摘もある。

世界に破滅的な結果をもたらしかねない

サイやトラの絶滅が危惧される状況をふまえ、世界自然保護基金(WWF)のマーガレット・キネアード氏は「これまで25年にわたってサイの角やトラの骨の取引を禁じてきた中国が従来の方針を転換したことは、世界に破滅的な結果をもたらしかねない」と強い懸念を示し、「2017年12月31日に発表された、中国国内での象牙の加工や販売の全面禁止の方針にも反する」と指摘する。

同様に、中国の方針転換を批判する声は、英国の非営利団体「環境捜査局(EIA)」や動物保護団体「ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル」、密猟や違法売買の撲滅に取り組む「ワイルド・エイド」などからも寄せられており、野生動物保護の観点から、ますます懸念が広がりそうだ。

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