最新記事

健康被害

ハリケーンや台風が残した傷:中長期にわたって健康被害へのリスクに注意が必要

2018年9月21日(金)10時35分
松岡由希子

大規模な洪水においては、中長期にわたって健康被害へのリスクに注意 Andrea Salgado Rivera-REUTERS

<ハリケーン「フローレンス」が残した被害は甚大だったが、あらためて大規模な洪水被害がもたらす、中長期な健康被害へのリスクが喚起されている>

2018年9月1日に大西洋で発生したハリケーン「フローレンス」が14日、米ノースカロライナ州ライツビル・ビーチに上陸。地元紙「シャートロット・オブザーバー」によるとこれまでに36名が犠牲となり、物的損害の規模は170億ドル(約1.9兆円)から220億ドル(約2.5兆円)にのぼると試算されている。また、「フローレンス」に限らず、ハリケーンや台風などに伴う大規模な洪水においては、中長期にわたって健康被害へのリスクにも十分な注意が必要だ。

カビによる呼吸器感染症や汚染水による発疹、レピトスピラ症の感染...

豪クイーンズランド工科大学(QUT)の研究チームが500以上の事例から洪水にまつわる健康被害の影響度とその原因について分析したところ、洪水が人々にもたらす健康影響は、溺死や外傷、低体温症といった直ちに発生する直接的な被害だけでなく、中長期的には、傷感染や伝染病、食料不足による栄養失調、メンタルヘルスの悪化など、間接的な被害も引き起こすことがわかった。つまり、短期間にとどまらず、中長期にわたる危機として、洪水による健康被害を認識するべきということだ。

2017年8月にハリケーン「ハービー」がヒューストン都市圏にもたらした大規模洪水では、カビによる呼吸器感染症や汚染水による発疹、下痢などの健康被害が発生。カリブ海北東のプエルトリコでは、2017年9月にハリケーン「マリア」が上陸した後、これまで沈静化していたレピトスピラ症の感染が急速に広がった。

外傷後ストレス(PTS)や心理的苦痛(GPD)も

また、被災者のメンタルケアについても、もっと目を向ける必要があるだろう。米マサチューセッツ大学ボストン校のジーン・ローズ教授らの研究チームが2005年8月に米国南東部を襲ったハリケーン「カトリーナ」の被災者を対象に災害に伴うメンタルヘルスへのストレス要因を分析したところ、フィジカル・インテグリティ(身体の健康を完全な状態に保つこと)への脅威が外傷後ストレス(PTS)や心理的苦痛(GPD)と最も強い関連を示したほか、食料や水、医療など、生きるうえで基本的に必要なものの不足やペットの死もこれらと関連が深いことが明らかとなっている。

日本でも、中国・四国地方で甚大な被害を受けた「平成30年7月豪雨」や近畿地方を中心に被害をもたらした台風22号など、大規模な水害が相次いで発生しており、現在も、被災者の多くが日常生活を完全に取り戻すまでに至っていない。中長期的な視点で、被災者の心身の健康をケアし、きめ細かいサポートが必要といえるだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪気象局、エルニーニョ終了を発表 ラニーニャ発生は

ビジネス

円安は是正必要な水準、介入でトレンド変わるかは疑問

ビジネス

米アップル、ベトナム部品業者への支出拡大に意欲=国

ビジネス

ECBの6月利下げ、インフレ面で後退ないことが前提
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中