最新記事

中国

中国政局の「怪」は王滬寧の行き過ぎた習近平礼賛にあった

2018年8月6日(月)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

南アで開催された BRICS首脳会議で講演する習近平国家主席(7月25日) Mike Hutchings-REUTERS

中国の政局に何やら怪しい風が吹いている。聖地化された文革時代の習近平の下放先「梁家河」に関して王滬寧が習近平の個人崇拝を煽り過ぎ世論の反発を招いた。危険を感じた習近平が自ら禁止したことが「怪」の正体だ。

研究課題「梁家河」大学問でつまずいた王滬寧

チャイナ・セブンの一人である王滬(こ)寧(党内序列5。イデオロギー担当)は、聖地化された「梁家河」(りょうかが)を「梁家河」大学問という研究課題で推進し、習近平への崇拝をさらに強化しようとしたが、それが行き過ぎてしくじってしまった。

「梁家河」というのは、文化大革命時代、習近平(1953年6月15日生まれ)がまだ15歳だった1969年1月、下放のために行った先の地名だ。正確には陝西(せんせい)省延安市延川県文安驛(やく)鎮にある村である。習近平は1975年までの7年間、梁家河にいた。

延安は毛沢東の革命の地。15歳の習近平は自ら下放先に延安を選んでいた。その後、「(自分は)延安の人」という文章を書いて、まるで「毛沢東の直系の後継者」のような正当性が自分にはあるという雰囲気を醸し出すようになる。習近平の威信を高めていくに従い、梁家河はまるで「聖地」のように位置づけられ、観光客や信奉者で賑わうようになった。

2016年9月、陝西人民出版社は『梁家河』という本を出版せよという政府からの指令を受け、2018年5月2日に出版。陝西省人民政府と陝西人民出版社による出版発表会が開催された。

2018年6月13日になると、中共中央は<『梁家河』を学習せよ>というキャンペーンを始めた。

すると今度は中国共産党新聞網(網:ネット)が「梁家河で"大学問"を感じ取ろう」という記事を載せた。

そこには習近平の次の言葉がある。

「私が人生の第一歩として学んだものは全て梁家河にある。梁家河を軽視しない方がいい。ここは大学問の地だ。

6月22日には中国共産党新聞網が「梁家河大学問に学ぶ熱い血潮が燃えたぎる」という趣旨の報道をし、中央テレビ局CCTVでも熱く宣伝されて、中国は真っ赤に燃え始めた。

ラジオでも『梁家河』を12回連続ドキュメンタリー番組として放送した。

また華陰市中医医院という小さな組織においてさえ、その学習会を開催するという徹底ぶりだ。

そもそも今年1月から既に「中国共産党新聞網」には「梁家河は"大学問"の地だ」という報道が見られる。

こうして6月21日、陝西社会科学網は、陝西省社会科学界聯合会が「梁家河大学問を研究課題とする」と宣言し、17項目にわたるプロジェクトを組むことを発表した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、従業員の解雇費用に3億5000万ドル超計

ワールド

中国の産業スパイ活動に警戒すべき、独情報機関が国内

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中