最新記事

朝鮮半島

韓国、非武装地帯から撤収へ 本当に大丈夫なのか

South Korea Wants to Withdraw Forces from Border

2018年7月26日(木)16時30分
ブレンダン・コール

今年の夏の米韓合同軍事演習は北朝鮮への配慮から中止になった(写真は春定例の合同訓練、2003年) Darren Whiteside-REUTERS

<北朝鮮が約束したとされる完全な非核化の実現性が疑問視されるなか、韓国国防省はあくまで南北首脳会談の合意を守る方針だ>

韓国は7月24日、北朝鮮との軍事境界線に沿って設けられた非武装地帯(DMZ)の哨戒所から兵力や装備を試験的に撤収させる方針を明らかにした。朝鮮半島の平和実現に向けた動きが加速するかもしれない。

聯合ニュースによれば、計画を推進しているのは韓国国防省で、将来的には「全面撤収」も検討するという。DMZは1953年の朝鮮戦争の休戦協定に基づいて設定されて以降、65年間にわたり南北を分断している。

もし計画が進めば、4月27日に板門店で行われた南北首脳会談で韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が合意した「板門店宣言」通り、南北の緊張緩和に向けた一歩になるだろう。

「DMZを(実質的な)平和地帯に変える、とした板門店宣言の合意を実現するため、DMZ内にある哨戒所の兵士や装備を試験的に撤収した後、段階的に撤収の範囲を拡大していく方針だ」、と韓国国防省は発表した。聯合ニュースが報じた。

この発表は、アメリカの北朝鮮分析サイト「38ノース」が人工衛星の写真をもとに、北朝鮮が同国北西部の東倉里(トンチャンリ)にある「西海(ソヘ)衛星発射場」で、主要構造物やロケットエンジンの試験台の解体を始めた、との分析を発表した7月23日の翌日に行われた。ドナルド・トランプ米大統領が6月12日の米朝首脳会談で北朝鮮が約束したと言っている朝鮮半島の「完全な非核化」が本当に実行されるのか、疑問視する声が広がっていたからだ。

北朝鮮も、アメリカをはじめとする西側諸国との疑念を払うため、非核化に向けた合意を守る姿勢をアピールした、と見られている。

制裁は継続

韓国国防省はまた、北朝鮮とアメリカと共同で、DMZで朝鮮戦争戦死者の遺骨発掘を進める計画も発表。米韓軍の兵士と北朝鮮軍の兵士が対峙する板門店の共同警備区域(JSA)の非武装化も目指すという。

「南北首脳会談でDMZを平和地帯に変えるとした合意に基づき、JSAの警備人員を縮小し、武器などの装備品も見直す」、と韓国国防省は発表した。

そこまで北朝鮮を信じて本当に大丈夫なのか。

韓国の康京和(カンギョンファ)外相は7月19日に訪問先のロンドンで講演した際、北朝鮮が非核化に着手していると韓国は信じている、と語った。

「ある程度の疑念を持つのは良いことだが、今回は北朝鮮の指導者が自ら表舞台に出て、完全な非核化に取り組むと国際社会を前に約束した。そこまでやった彼にしてみれば、後戻りするリスクの方が極めて高いだろう」

「国際社会による対北朝鮮制裁が続く限り、経済発展の実現は不可能だと彼は理解している。だからこそ、完全な非核化を確実にするまで、我々が経済制裁を続けることが重要だ」、と康はロンドンの講演で念を押した。

(翻訳:河原里香)


180731cover-200.jpg<本誌7/31号(7/24発売)「世界貿易戦争」特集では、貿易摩擦の基礎知識から、トランプの背後にある思想、アメリカとEUやカナダ、南米との対立まで、トランプが宣戦布告した貿易戦争の世界経済への影響を検証。米中の衝突は対岸の火事ではない>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中