最新記事

ドキュメンタリー

セレブが愛するNYの隠れ家ホテル「ザ・カーライル」

Soul of a City (and Discretion)

2018年7月26日(木)18時30分
メアリー・ケイ・シリング(本誌記者)

ナオミ・キャンベルら錚々たるセレブがカーライルの魅力やエピソードを語る Justin Bare

<ハリウッドスターや著名人が明かした、宿泊客は必ずリピートする「秘密の宮殿」の魅力>

ダイアナ妃、マイケル・ジャクソン、そしてスティーブ・ジョブズが次々にエレベーターに乗り、エレベーター係がドアを閉める。3人とも口を聞かないまま、エレベーターはどんどん上階に昇っていく。緊張を破ってダイアナ妃がジャクソンのヒット曲「今夜はビート・イット」を口ずさみ始めた......。

世界広しといえども、こんな逸話がある建物は「ザ・カーライル」と呼ばれるニューヨークのカーライル・ホテルくらいのものだろう。ニューヨーク・タイムズが「秘密の宮殿」と呼んだこのホテル、常連客のリストには歴代の米大統領やハリウッドの大物俳優、音楽界やスポーツ界のスーパースターがキラ星のごとく名を連ねる。

毎年5月にメトロポリタン美術館で開催されるファッションの祭典「METガラ」では、多くの招待客がこのホテルに宿を取り、自慢のドレスに身を包んでこのホテルから「出陣」する。モデルのナオミ・キャンベルが16年のガラのために泊まったときには、同じ階にデザイナーのステラ・マッカートニー、歌手のリアーナ、女優のカーラ・デルビーニュがいたという。

もう1つ、伝説的な逸話を紹介しよう。03年の米軍のイラク侵攻時、イラクの代表団が国連総会に出席するため、このホテルに予約を入れた。FBIはルームサービス係に扮した捜査官を部屋に侵入させ、電話を盗聴しようとしたが、当時のオーナー、ピーター・シャープは「事情にかかわらず、ご協力できません」と突っぱねた。「ウォーレン・ベイティ様(の宿泊)に、そのような取り扱いはいたしません。イラク御一行であっても同じです」

1度泊まればとりこに

これらのエピソードは全て、マシュー・ミーレー監督のドキュメタリー映画『オールウェイズ・アット・ザ・カーライル』に出てくる話だ。ビッグネームが次々に登場し、宿泊時の思い出を語るこの映画は、古風な美意識を誇る老舗ホテルの魅力を生き生きと伝えている。

シェフで作家の故アンソニー・ボーデインに言わせると、人は恋に落ちるようにこのホテルのとりこになる。「何とも風変わりな魅力が心を捉える。文句なしに素晴らしい――はっきり言えば、いかれたホテルだ」

「いかにもニューヨークらしいホテル」という表現も映画の中でしばしば聞かれる。もっとも、そう言えるのはごく限られた人だけだ。セントラルパークを一望の下に見渡せるスイートルームの宿泊料金は、最高で1泊なんと2万ドル。ブッシュ政権で国務長官を務めたコンドリーザ・ライスは、自身が泊まった部屋が1泊4000ドルだと聞かされて「1万ドルよりはましよね」と苦笑したという。

NYhotel20180723091102.jpg

カーライル・ホテルのかつてのエントランス Courtesy Good Deed Entertainment

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中