最新記事

ミャンマー

人権の女神スーチーは、悪魔になり果てたのか

AUNG SAN SUU KYI IS NOT A MONSTER

2018年6月12日(火)15時30分
ピーター・コクラニス(歴史学者)

NLDが総選挙で圧勝した2015年はスーチー旋風が吹き荒れたが Lauren Decicca/GETTY IMAGES

<ロヒンギャ問題で世界から非難されるミャンマー民主化のシンボル――しかし彼女が置かれた状況と国の歴史を知るべきだ>

アイドルの賞味期限は短いものだが、それにしても・・・・・・。ミャンマー(ビルマ)の国家顧問で事実上の国家元首であり、かつては「ザ・レディ」と呼ばれて親しまれ、敬われたアウンサンスーチーのこのところの人気凋落ぶりはすさまじい。

非暴力で軍事政権に立ち向かい、長年の自宅軟禁にもめげず、1991年にはノーベル平和賞を贈られ、耐えに耐えて民主化を勝ち取った彼女だが、今はイスラム系少数民族ロヒンギャに対する非道な迫害に見て見ぬふりをしていると非難され、袋だたきに遭っている。ノーベル賞を剥奪しろという声まで上がった。

不当な批判だとは言うまい。しかしスーチーは極悪人ではない。彼女は政治家であり、政治の現実を見据えている。ミャンマーの民主主義は生まれたばかりで、まだよちよち歩き。しかも軍部が絶対的な拒否権を握っている。そんな国で、彼女は与えられた権限の範囲で自分のベストを尽くそうとしている。それだけのことだ。

だから彼女は、自分が代表しているはずの多数派勢力(ビルマ族の仏教徒たち)の利益を守ろうとし、そのためなら時には無慈悲に思える決断もし、少数民族の利益を犠牲にもする。遠く離れた安全な国にいて、結果を考慮せず、好き勝手にものを言える立場ではない。彼女はリスクに囲まれ、針のむしろに座らされている。

スーチーを弁護するつもりはない。私は彼女の柔軟性の欠如や政治姿勢を批判したことがあるし、政権与党の国民民主連盟(NLD)を無条件で支持しているわけでもない。しかし今の彼女に対する批判は不当であり、そうした批判をする人たちは彼女が直面している困難な状況を正しく理解していないのだと思う。

一見したところ、スーチー批判には明確な根拠があるように思える。ミャンマー西部ラカイン州のバングラデシュと国境を接する一帯に暮らすロヒンギャは、世界でもまれに見るほどに不運で孤立した人々。その窮状には誰もが胸を痛めている。しかしスーチーは16年から続く組織的な焼き打ちや殺害についてめったに語らず、「ロヒンギャ」という言葉さえ使わない。

16年の秋、ロヒンギャ内部の過激派による散発的なテロ行為を口実に、ミャンマー国軍と仏教徒の一部が残虐な報復攻撃を仕掛け、何十万ものロヒンギャが国境の川を越えてバングラデシュへ逃げ込んだ。この突然の人道危機に対して、国際的な人権擁護団体やNGO(非政府組織)、欧米のメディアなどはこぞって軍部を、そして暗にミャンマー政府を非難し、これは許し難い「民族浄化」だと言い募った。

イギリス統治下からの対立

批判の矢はスーチーにも向けられた。アンジェリーナ・ジョリーやボブ・ゲルドフ、ボノら人道問題「専門家」セレブたちはもとより、去る3月にはニューヨーク・タイムズ紙も社説で痛烈に非難した。

ニュース速報

ワールド

米下院、大型農業法案を可決 フードスタンプ制度を変

ワールド

ルピアの年初来の下落、「耐えられる」=インドネシア

ワールド

英国、「無秩序な」EU離脱に向かっている=ドイツ産

ワールド

米下院、合法移民向けビザ削減法案を否決 一部共和党

MAGAZINE

特集:米朝会談の勝者

2018-6・26号(6/19発売)

トランプ、金正恩、日本、中国......世紀の対面で得したのは? 会談結果から見えてくる米朝交渉と非核化の行方

人気ランキング

  • 1

    噴火がつづくハワイ・キラウエア火山──空から宝石が降って来た

  • 2

    「日本は深く考えてみるべきだ」北朝鮮がお説教を始めた

  • 3

    W杯で世界を驚かせた日本の「もう一つの勝利」

  • 4

    「家賃は体で」、住宅難の英国で増える「スケベ大家」

  • 5

    頭は鳥、体は魚!? 釣り針にかかった奇妙な生き物…

  • 6

    「ダディ、これどうするの?」──不法移民の親子引き…

  • 7

    「魚や貝を通じてプラスチックを食べている」という…

  • 8

    米国、不法移民の親子を一緒に収容へ トランプが大…

  • 9

    エリザベス女王の従弟が英国王室初の同性婚へ 実娘…

  • 10

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 1

    頭は鳥、体は魚!? 釣り針にかかった奇妙な生き物の正体は...

  • 2

    噴火がつづくハワイ・キラウエア火山──空から宝石が降って来た

  • 3

    「魚や貝を通じてプラスチックを食べている」という研究結果が明らかに

  • 4

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 5

    大阪北部地震、被害状況しだいに判明 企業活動にも…

  • 6

    北朝鮮の脅威が去れば、日本の次の「敵国」探しが始…

  • 7

    「家賃は体で」、住宅難の英国で増える「スケベ大家」

  • 8

    サンスクリット語でマントラを暗唱すると、脳灰白質…

  • 9

    新しい音楽を楽しめるのは30歳まで?

  • 10

    キモかわいい! 「人間」すぎる人面犬にネットが大…

  • 1

    頭は鳥、体は魚!? 釣り針にかかった奇妙な生き物の正体は...

  • 2

    会談中止で言ってることが支離滅裂......金正恩のメンタルは大丈夫か

  • 3

    トランプみごと!──金正恩がんじがらめ、習近平タジタジ

  • 4

    中国激怒──米朝首脳会談中止

  • 5

    厳罰に処せられる「ISISの外国人妻」たち

  • 6

    クルド女性戦闘員「遺体侮辱」映像の衝撃──「殉教者…

  • 7

    噴火がつづくハワイ・キラウエア火山──空から宝石が…

  • 8

    「魚や貝を通じてプラスチックを食べている」という…

  • 9

    「ゴースト」「ドイツの椅子」......ISISが好んだ7種…

  • 10

    女王のハートを射止めた新たな「ロイヤル・ドッグ」…

グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク・デジタル編集部アルバイト募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版

SPECIAL ISSUE 丸ごと1冊 プーチン

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2018年6月
  • 2018年5月
  • 2018年4月
  • 2018年3月
  • 2018年2月
  • 2018年1月