最新記事

北朝鮮

トランプ政権から歓待を受けた金正恩の右腕、金英哲の黒い経歴

2018年6月1日(金)15時15分
ロビー・グレイマー

アメリカでスターのように迎えられた金英哲 Mike Segar-REUTERS

<工作機関トップ時代には、韓国哨戒艦への水爆攻撃や延坪島砲撃も指示したとみられるが、米朝首脳会談を前に今やセレブ扱い>

米朝首脳会談の開催に向けて、マイク・ポンペオ米国務長官と北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長が5月30日からの2日間、ニューヨークで会談を行った。

金英哲は、北朝鮮工作機関トップの軍偵察総局長を務め、2014年にソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントの個人情報が流出したハッカー事件など、近年注目された北朝鮮の軍事作戦を指揮していたとみられる。

いわばテロ国家の黒幕だが、金正恩が対話路線に急ハンドルをきった平昌冬季五輪以降は、しばしば金の代理として表舞台に姿を表すようになった。今回初めて訪ねたニューヨークではポンペオが満面の笑みで出迎え、固い握手を交わすなどVIP並みの待遇を受けた。

核兵器のやりとりをしている割にはどこか現実離れして、滑稽な光景だった。金英哲は6月1日には急きょワシントンに飛び、ドナルド・トランプ大統領に直接金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の親書を手渡すという。

北朝鮮高官の米訪問は18年ぶりで、米国務省によると、初日の30日はヒレステーキやバニラアイスを食べながらの夕食会形式で、翌日31日午前は正式な会談形式で協議が行われた。

2人が個人的な信頼関係を築ければ、北朝鮮の非核化を協議する米朝首脳会談の開催に向けて重要なステップになる、と専門家は見ている。

外交、情報関係者によると、金英哲は北朝鮮の「舞台裏」で最も有力な人物で、体制維持の先頭に立っている。金英哲が対米外交の表舞台に出てきたことは、金正恩を中心に動いている北朝鮮のなかで、特別な影響力を持っていることを示している。

現在73歳の金英哲は、北朝鮮の親子3代の金王朝に仕えてきた。金正恩が最高指導者となった2011年以降は、政権の最高レベルで多くの政敵たちが粛清で命を落とすなかを生き延びてきた。

「最高指導者となった金正恩は数百人を粛清したが、金英哲はそれを生き抜いただけでなく金正恩の右腕になった」と、元CIA分析官で現在シンクタンク「戦略国際問題研究所」のコリア部門シニアフェローを務めるスー・ミ・テリーは話している。「(金英哲は)金正恩を代弁することができる。そんなことができる人物は、他にいない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中