最新記事

貿易戦争

世界に貿易戦争を挑むトランプ、中国に続きEUとも報復合戦

2018年6月25日(月)16時30分
クリスティナ・マザ

トランプは西側でも孤立(写真は6月9日、カナダのケベックで開かれたG7サミットでの一幕) Adam Scotti/REUTERS

<EUが報復関税を発動したのを受けて、トランプは直ちに「ツイート」ですべての欧州車に20%の関税をかけるぞと脅迫>

ドナルド・トランプ米大統領が、世界に貿易戦争を仕掛けている。経済学者の多くが米中間の報復関税合戦に目を奪われる中、アメリカに着々と報復措置を繰り出しているのがEUだ。

アメリカは5月31日、EUなどの同盟国には一時的に適用を除外していた鉄鋼25%、アルミニウム10%の追加関税を、メキシコやカナダ、EUからの輸入にも適用すると発表した。EU加盟28カ国とメキシコ、カナダは対抗措置を用意し、6月22日に発動した。

現在、アメリカからEUに輸出される約340品目に追加関税がかけられている。対象品目の多くは、トウモロコシやインゲン豆、米、ピーナツバター、クランベリーなど、農産品や食料品が中心だ。ウィスキーとタバコにも約25%の追加関税がかけられる。鉄鋼製品を含む金属製品に加え、化粧品、Tシャツ、調理器具も対象になった。一部の衣類や紙製品、毛布類は35~50%の高関税にさらされる。全体で32億6000万ドル分のアメリカ製品に相当する報復課税だ。

カナダとも「戦争」厭わず

EUからの報復のニュースを知ったトランプは同22日の朝、さらなる報復措置をツイッターで発表した。

「もしEUがアメリカや米企業、労働者に長年課してきた関税や貿易障壁をすぐに取り除かなければ、EUからの輸入車すべてに20%の関税をかけてやる。どうしても売りたければアメリカで作れ!」

トランプの言う「関税」が、今回EUが発動した追加関税を指すのか、EUが従来からアメリカ車に課してきた10%の関税を指すのかははっきりしない。いずれにせよ、このツイートに欧州、特にドイツの自動車メーカーは震え上がった。

トランプ政権になってから、貿易は外交上の大きな争点になっている。6月9日、カナダのジャスティン・トルドー首相は、鉄鋼・アルミ製品への追加関税は「侮辱的」としてアメリカの貿易政策を批判した。これに対しトランプは「不誠実で弱虫」などとトルドーを扱き下ろした。トランプ政権は5月23日に、自動車や自動車部品の輸入が米通商拡大法232条に基づく国家安全保障の脅威に相当するかどうかの調査する、と発表している。もし自動車部品に輸入関税が課されれば、アメリカへの自動車部品輸出最大手のカナダがいちばん打撃を受けることになる。隣国カナダにも容赦がない。

安全保障を口実に鉄鋼やアルミの輸入を制限することには米与党共和党の議員の間でも反対する声が上がっているが、「不公正」貿易との戦いは支持する声も根強い。

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀会合直後の為替介入、1年半前の再現巡

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想以上に改善 サービス業

ワールド

インドネシア中銀、予想外の0.25%利上げ 通貨下

ワールド

再送-イスラエル、近くラファに侵攻 国内メディアが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中