最新記事

北朝鮮

北朝鮮の軍大佐「落書きしまくり」で公開処刑か

2018年5月9日(水)11時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮は一貫して韓国の国家情報院が謀略を仕掛けてきたと主張している KCNA-REUTERS

最近、北朝鮮の首都・平壌の中心部にある重要施設「4・25文化会館」で金正恩体制を非難する落書きが発見されたが、その犯人として朝鮮人民軍(北朝鮮軍)総参謀部の大佐が逮捕され、公開処刑されたと消息筋が伝えてきた。

平壌の情報筋は7日、デイリーNKの電話取材に対し、「軍作戦局上級参謀の大佐ともうひとりが3月末、平壌郊外にある姜健(カン・ゴン)総合軍官学校で、自動小銃で銃殺された。4・25文化会館などで体制に反対する内容の落書きを行った疑いを受け、容赦なく殺されたのだ」と話し、次のように説明を続けた。

「今回の処刑は、平壌地域の保衛部(秘密警察)と軍の幹部だけを集めて、静かに実行された。家族はどこかに連れて行かれたが、おそらく管理所(政治犯収容所)行きになったのだろう」

参考記事:機関銃でズタズタに...金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

情報筋はさらに、「銃殺された上級参謀は両江道(リャンガンド)と江原道(カンウォンド)に駐屯している各軍団の訓練状況を視察し、上層部に報告する任務に携わってきた。この約3年間、あちこちの地方を回りながら、金正恩体制に反対する落書きを書きまくっていたらしい」と話した。

ここで言われている「3年にわたる落書きしまくり」が、大佐の自供によるものなのか、それとも北朝鮮当局の一方的な主張であるのかは、まだわからない。だが、この言葉が事実ならば、これまで北朝鮮国内から伝えられた各種の落書き事件の多くを、この大佐が主導した可能性があるということだ。

情報筋はまた、「(当局は)処刑に際し、『(犯人が)黒いカネを受け取り、一次的な誘惑に負けて反逆行為を働いた』と主張した」と伝えた。

北朝鮮はこれまで一貫して、韓国の国家情報院が自国に謀略を仕掛けてきたと主張している。ここで出た「黒いカネ」というのも、それを意味していると思われる。またそのことを強調することで、内部の思想的な結束を強める効果を狙ったのかもしれない。

ちなみに金正恩体制になって以降の公開処刑では、大口径の4銃身高射銃で、人体をミンチにするような手法が用いられてきた。

3年間も反体制的な落書きを書いてきた犯人ならば、こうした殺され方をしてもおかしくなかったはずなのだが、今回は自動小銃が用いられたという。

もっとも、自動小銃でもじゅうぶんに強力であり、1人に対し10発も撃ち込んだというから、遺体はズタズタである。それでも大型の高射銃を使わなかったのは、過去に衛星写真で処刑場面が捉えられ、海外で問題視されたのを気にしているからではないだろうか。

参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」...残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

3月過去最大の資金流入、中国本土から香港・マカオ 

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月速報値は51.4に急上昇 

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」据え置き、自動車で記述追加

ビジネス

英総合PMI、4月速報値は11カ月ぶり高水準 コス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中